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CFOの視点で描く未来 | 株式会社ニコン | 企業インタビュー

Today's President

徳成旨亮さん

株式会社ニコンの代表取締役 兼 社長執行役員COO 兼 CFOを務める徳成さんは、同社のリーダーとして未来を見据えた取り組みを推進しています。三菱UFJフィナンシャル・グループでの豊富な経験を持ち、「インスティテューショナル・インベスター」誌で日本の銀行部門において4年連続ベストCFOに選出された実績を誇る社長は、著書『CFO思考』もビジネス界で広く読まれています。ニコンでは「2030年のありたい姿」として「人と機械が共創する社会の中心企業」を掲げ、映像、ヘルスケア、精機、コンポーネント、デジタルマニュファクチャリングの5つの事業を展開しています。

ニコンHP

徳成旨亮さん

本社見学

ニコンの本社は2024年7月に稼働を開始したばかりで、モダンな外観が印象的です。社内では、社員が自由に働けるスペースが整備されており、リラックスしながら業務に取り組むことができます。オープンなコミュニケーションスペースも豊富に設けられており、異なる部署間での交流が活発に行われていました。新たなアイデアや革新が自然と生まれる、クリエイティブな雰囲気を感じました。

ショールームでは、ニコンが展開する5つの事業ごとの製品について詳しい説明を受けることができました。特に、リブレット加工によるエネルギー効率の向上や半導体露光装置の技術に関する解説は印象的で、ニコンの事業の多様性と技術力を改めて実感しました。

2024年秋にリニューアルオープンされる予定のニコンミュージアムも大いに期待されています。

ニコンミュージアムの公式Instagramアカウント

インタビュー

Q1. 現在取り組まれている事業領域とそのターゲットについて

ニコンは現在5つの事業領域に取り組んでいます。カメラを中心とした映像事業、半導体や液晶パネルの露光装置に取り組む精機事業、顕微鏡などのライフサイエンスに取り組むヘルスケア事業、コンポーネント事業、そして金属3Dプリンターなどに取り組むデジタルマニュファクチャリング事業です。これらの事業を幅広いターゲットに向けて展開しています。
中でもデジタルマニュファクチャリング事業は全く新しい領域です。金属3Dプリンターには、金属の粉に光を当てて製品を作るという革新的な技術を採用しており、ものづくりの世界に変革を起こそうと考えています。現在、この事業は収益化に向けて育成中ですが、他の4つの事業は黒字を達成しています。
私たちのビジネスは、1つ1つが世の中の役に立つという目的で取り組んでいます。サステナブルな社会に貢献することとニコンという企業の持続可能性は矛盾しないと考えています。

Q2. CFOの仕事と役割について

CFO、つまり最高財務責任者の役割は非常に広いです。日本では決算や税金、銀行からの資金調達などが主な業務ですが、アメリカでは財務の裏側にある戦略まで含まれます。例えばM&Aや経営計画などもCFOの役割に含まれます。また、最近ではCSR(企業の社会的責任)や人的資本経営、人材育成などもCFOの役割に含まれるようになっています。最近では日本のCFOも領域が広がっており、アメリカのCFOに近づきつつあると思います。
これらの幅広い業務を遂行するためには、技術的な知識も一定程度必要となります。社内の投資判断や国内外の株主への説明のためにも常に勉強を続けています。

Q3. 営業利益が赤字となった要因と1年で大幅な業績改善を果たした要因について

2020年にニコンに入社した際、いきなりコロナ禍に直面しました。会社はその時、100年以上の歴史で最大の赤字を記録していました。これには2つの要因があり、1つがコロナで海外に出張できず、半導体や液晶パネルの露光装置を販売できなかったことです。もう一つはデジタルカメラの普及により、カメラの需要が減り、映像事業が赤字になっていたことです。ニコンの二大事業が両方とも赤字となり困難な状況でしたが、社員の皆さんの頑張りのおかげで1年で黒字にすることができました。
この時、考えていたことが3つあります。まず映像事業では中高級機にシフトする戦略をとり、同時に損益分岐点を下げるためのコスト削減を実施しました。結果として中高級機へのシフトが成功し、現在では映像事業が最も大きな事業となっています。また、未来を見据えたビジネスとしてデジタルマニュファクチャリング事業や環境課題の解決などの新しい事業領域に注力しました。そして、半導体露光装置でお客様の多様化を図りました。このようにして業績改善を果たしました。

Q4. 経営戦略やM&Aの意思決定について

経営戦略やM&Aの意思決定では、まずそのプロジェクトが世の中のニーズやトレンドに合っているかどうかを確認します。自社の技術がどれほど優れていても、それが世の中に役立たないものであれば価値はありません。また、そのプロジェクトを推進する人がどれほど本気であるかも重要です。熱意を持って最後までやり遂げる意志があるかどうかを確認することが大事です。

Q5. 高専生への期待について

高専生は日本の技術立国を支える重要な存在であり、特にものづくりにおいてその才能を発揮しています。高専生はグローバルにみてもユニークな存在だと思います。私たちの会社でも高専出身の方々が中核を担って活躍しています。高専生の皆さんには、技術を活かして様々な分野で活躍し、日本の未来を支えてほしいと期待しています。私たちも奨学金や講演などを通じて高専生をサポートしています。

Q6. スタートアップの経営者に必要な能力

スタートアップの経営者には、まず何を実現したいかという明確なビジョンが必要です。それを実現する道として起業があるので、とにかく起業したくてあとから何をやるか考えるのは順番が逆だと思います。起業することが目的とならないように、まずはやりたいことを見つけることが重要です。また、資本を集めるためのベンチャーキャピタリストとの関係構築も大事です。いいベンチャーキャピタリストを見つけて、アドバイスをもらいながらやるといいと思います。失敗を恐れずに挑戦してほしいと思います。

Q7. 学生時代について

私は人口200人の九州の島から上京し、塾のアルバイトなどをしながら学費を稼いでいました。ギターやフルートなどの音楽にも打ち込んでおり、現在でも続けています。学生時代は新しい発見が多かったため、楽天的で常に前向きに過ごしていました。皆さんにも心持ちを前向きに持ってもらいたいと思います。

Q8. 若者へのメッセージ

皆さんには失敗を恐れず、行動力を持って生活してほしいと思います。キャリア計画は大事ですが、計画通りに行かないことも多いです。その時に落ち込まず、次の行動に移ることが成功への道です。また、外発的に外に出て人に会いに行く姿勢が重要だと統計的に証明されています。そして自分が絶対に譲れない価値観を持つことも大事です。それを基に判断していけば、自分にとって最適な道が見えてくるはずです。

執筆者の感想

今回のインタビューを通じて、徳成さんが推進した映像事業のV字回復戦略や経営哲学を学び、CFOという役割が企業にとって非常に重要であることを強く感じました。スタートアップ経営者にとってもCFO思考を身につけることが欠かせないと実感しました。特に、徳成さんが若者に向けて語った「計画的偶発性」の考え方が深く心に残りました。計画通りに進まなくても、失敗を恐れずに挑戦し続けることで成功がつかめるというメッセージは非常に力強く感じました。
また、徳成さんの温かく穏やかな人柄や、どんな話にも真摯に耳を傾ける姿勢から、リーダーとしての包容力を感じました。
今後、株式会社ニコンがさらなる飛躍を遂げることを心から期待し、応援しています。

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