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常態化
人から嫌われることが常態化すると人はどうなるのか。まるで実験台にされているみたいだ。
結局のところ変わらないでいるのも自分の意志だし、他者の感情だってある意味では自分で選び取ったものなのだ。好むと好まずと関わらず。
まぁ、どうでもいい。とにもかくにも生はまだここにある。
語るべきことは何もない。ベランダには蜘蛛の巣がびっしりと張ってある。
蝶は捕食され、物干しは気の毒な糞にやられ、鳥は甲高くさえずる。
僕のサンダルは僕のものであることを放棄し、一人頑なに沈黙を守っている。
僕の声はもう聞こえないのだ。自分ではもう制御できなくなってしまったくらいに沈黙の殻が固く、大きくなってしまった。不器用なふとっちょのヤドカリみたいに。
そのようにして、我々は孤独な世捨て人になる。窓から見える景色に心を奪われることもなくなる。部屋の空気が二度か三度下がり、致命的な終末の匂いを放つことになる。
我々はその空気の中を遊泳し、いつか水上に出ることを夢想しながら、沈んでいく。
傷ついた床はそれ以上のことは語らない。
湿気にやられたベッドの木板は、上手く喋ることのできない唖の子供みたいに黙っている。
やがて浮かび上がる真実を直視できない我々は、水底の暗やみの中で目を瞑る。
我々の最後の証は、ほんの小さく、水面に波紋を呼び起こし、そして消える。
楽譜にならなかった音楽みたいに。