夜空に瞬く痛切な瞬き
これほど密度の濃いジャズオーケストラ・サウンドはほかにあるのだろうか。一つ一つの楽器が明確な使命と役割を持ち、スリリングでサスペンスに満ちた謎と伏線が積み上げられ、ギル・エヴァンスの作り上げる秩序の中で綿密な調和を練り上げていく。
一切の無駄がなく、痛切なまでに研ぎ澄まされた音の旋律は聴き手の想像力を鋭利な刃物で突き刺すように刺激する。その音楽的構想のスケールの大きさと、精密で幻想的な楽曲の創造力は、凡人の頭では決して扱い得ないものだ。どれほどの時間、労力、慎重さを要してこのアルバムを作り上げたのだろう?
1960年、ギル・エヴァンス・オーケストラの『out of the cool』。私たちははるか頭上で魅惑的に展開される星空の神秘を眺めながら、ただただその壮大さに畏怖するしかないように。
ジャズ奏者のビル・クロウの著書『さよならバードランド』ではこんな一節がある。
ギル・エヴァンスは完璧主義者でエゴイストでもあり、残ったレコードはそう多くはない。寡作家ではあったが、残されたレコードはどれもジャズ愛好家の舌を巻くものばかりだ。イントロの一音で彼の世界は提示され、たったの一小節ですでにかれの描いた世界に引き込まれてしまう。緊張感と未知の体験に誘われ、そのサウンドの結末を追いかけないわけにはいかなくなってしまうのだ。
こういう音楽――というか、大きくいえば芸術に触れていると、つくづく創作とは足し算ではなく引き算なのだと思い知らされる。饒舌に語るのではなく、短く印象的なフレーズやリズムで提示する。自分の世界を見せびらかすのではなく、相手の頭にその世界を映し出させる。ギル・エヴァンスの音楽は正確緻密で知的なだけではない。自らの楽想に忠実に向き合えるだけの意志の堅さと誠実さが、決して壊すことのできない結晶となって彼の残した音楽を永遠に輝かせている。