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科学雑誌を読んで、四色定理のゲーム『サバンナテリトリー』をつくった話 デザインこぼれ話編
サバンナテリトリーの発売に向けてミヤザキが怒涛のnote更新を続けておりますが、自分にもちょっと語らせろや、とでしゃばってみました。バンソウ宮本です。
僕はサバンナテリトリーのアートワーク(作業的にはアートディレクションと言った方が正しそうですが)を担当しました。なのでこれからお話することはデザインと言ってもアート方面のお話です。
アートワークとは「おもてなし」である
デザインの骨子は「ゲームデザイン」の時点であらかた決まっていました。例えば以下のようなことです。
・特殊な形状のフィールドと、フィールド内のエリア分け
・両面を異なるフィールドにするというアイデア(プレイ人数に応じて切り替えます)
・イラストレーターをサタケさんにお願いするということ
フィールドについては先日のミヤザキのnoteをご覧になってください。
ゲームの骨子となるデザインアイデアがすでにあって、なんならイラストレーターまで決まっている状況。その中でアート担当者がすることってなんでしょうか。
アート担当者に課せられている使命はいつだって、ゲームデザイナーとプレイヤーとの橋渡しです。素晴らしいアイデアを、素晴らしい体験へとつなげるには何ができるのか。好き嫌いを超えたおもてなしの精神。ホスピタリティこそがアート制作においてはすべてである、と僕は言い切っちゃいます。
以下、今回のデザインこぼれ話編では、サバンナテリトリーにおけるホスピタリティのあり方についてお話します。
アニマルチップの動物の決め方
アニマルチップの動物、ライオン、ゾウ、カバ、ヌーです。この4種類に決定する前には、ヒョウ、サイ、ワニ、キリンといった候補がいました。
最初に決まったのはライオンとゾウです。まず重視したのは分かりやすさ。この2種は子どもに大変人気がある動物です、と言われて異論を唱える人はいないのではないでしょうか。
モチーフを決めるにあたって消去法も有効な手段です。ヒョウはライオンと似てしまうので脱落しました。ワニとキリンは20mmの丸いチップの中に収め辛そうなので見送りです。キリンは顔だけなら問題なさそうですが、キリンと聞いて思い浮かべるのはやっぱり長い首ですよね。最も特徴的で魅力的な部分を描けないならそれは選ぶべきではありません。
ヌーは人によってはあまり聴き馴染みのない動物ではありますが、それがむしろ引っ掛かりになって良いと判断し採用しました。ツノがあって、先の2匹と異なるシルエットで、名前の響きも良い。このゲームを遊ぶ人はきっと「ヌー」って意味もなく言いたくなるはずです。体験を賑やかなものにしてくれそうだな、と思いました。
残るはサイとカバ。結果としてカバを採用としたのはユーモアさを求めての事です。実際のカバは、ライオンよりも人間の殺傷数が多い獰猛なアニマルであるという事実も良いですよね。それを知っている人は、このゲームを遊びながら得意気に話すかもしれません。それもまた体験の彩りになるでしょう。
アニマルチップにおけるホスピタリティをまとめると、以下のようになります。
・分かりづらさを避けるため、シルエットが異なるものを選ぶ
・コンポーネントのサイズ感に合っているモチーフを選ぶ
・プレイヤーのコミュニケーションを活発にさせる仕掛けとして、突っ込みどころを作る
レンジャーの表情へのこだわり
実はレンジャーには上の画像の製品版とは違う、幻の別案がありました。決定したものとは別に、もう少しすらっとした&意地悪い表情の案です。
これもとても良かったのですが、今の案の決め手になったのは「人間もまた動物の一種である」という見え方をしたいと言うミヤザキからのオーダーでした。
決定案のレンジャーは表情が無くどこか動物的です。顔のパーツも人間と動物の中間という感じで、何を考えているのかあまり分かりません。この「人間っぽくなさ」が他の動物たちと並べた時によく馴染んでくれました。
馴染む、馴染まない、についてはどちらを取るかはケースバイケースです。例えば上記別案をもし選んでいたら、「動物たちの中に人間がひとり」といった見え方がより強くなるでしょう。それはこのレンジャーに、プレイヤーの視線や意識がより向かうということになりかねません。
サバンナテリトリーの主役は動物たちです。つまりレンジャーは馴染んで悪目立ちしない方が「正しい」と考えました。それがレンジャーにおけるホスピタリティです。
・世界観に余計なノイズを加えない
ゲームボードのデザインの落とし穴
上記画像はサバンナテリトリーのゲームボードです。最初はエリアごとに地形色で分けて表現することを検討していました。以下はテーブルトップシミュレーターに組み込んだ初期案です。
幾何学的で楽しいかなと思ったのですが、色のごちゃつきが気になったのでボツにしました。エリアをアニマルチップの色で仕分けして遊ぶのに、そのエリア自体に多様な色が配色されているというのは完全にゲームの邪魔をしており、ゲームデザイナーが意図していない混乱を生み出しています。
結果として、よりサバンナの地図っぽい現デザインとなりました。ゲームデザイン自体とは関係ないのですが、水辺や荒地、木やテントなど、プレイが楽しくなるようなオブジェクトを配置しています。プレイしていると思わず「ここの水辺はうちのライオンがもらった」「カバを木の下に滑り込ませるぜ」なんて会話が生まれます。
ちなみにこれらちょっとしたオブジェクトも、全体の世界観を大事にすべくサタケシュンスケさんに描き下ろしていただきました。素晴らしく可愛いです。
・デザインされていない混乱をもたらさない
・プレイヤーのコミュニケーションを活発にさせる仕掛けとして、突っ込みどころを作る(アニマルチップと同じ)
・細部に至るまで世界観にこだわる
ロゴが決まるまでの紆余曲折
上記は完成版のロゴです。
サバンナテリトリーには「動物」「4色」という2つのテーマがあるので、これらを盛り込むのが良いだろうと考えていました。作った初期案が以下です。
初期のロゴ案ではサバンナの「サ」をライオンの足にしていました。アイデアとしては気に入っていたのですが、視認性がもうひとつということで決定しきれず。壊滅的に読めないなんてことはないものの、決めきれないということはやっぱり選ぶべきではないアイデアということなんです。
そこから細かな調整を幾度となく繰り返した結果、足案は捨ててシンプルな形にしました。
余談ですが、カクカクした文字の角度はフィールドのエリア分けと同じルール(仕分けラインの角度)を用いています。「テリトリー」要素を隠し味程度に忍ばせました。
パッケージに載せた時のサタケさんのイラストを邪魔しないという点でも、今ではしっくりきていますね。
・視認性が十分にあること
・そのゲームらしさを盛り込む
ゲームのキャッチコピー
バンソウではボードゲームにつけるキャッチコピーを大事にしています。
ありがたいことにバンソウのゲームは全国の小売店で取り扱っていただける機会に恵まれています。そして大抵その隣には、バンソウ以外の素晴らしいボードゲームの数々が並んでいます。
そういうことを考えると自然と「店頭でお客様の手に取ってもらえるにはどうすれば良いか」に悩むことになり、それは「このゲームはあなたにぴったりのゲームですよ」と訴えかけることに繋がるからです。
バンソウではコピーの決め方のひとつとして「タイトルを差し替えたら成立しなくなるコピー」であるかを考えます。
例えば(実際出た案の一つですが)「先読み力が試されるゲーム」というコピーだと、結構な数のゲームがそれに当てはまるのではないでしょうか。ゲームの説明にはなっているかもしれませんが、そのゲームらしさを表現するには至っていないということです。
サバンナテリトリーではかなりの数を候補として持ち寄りました。その結果、最終的に決まったのは次の2つです。
1. ゲーム自体のメインコピー「4色アニマルのシンプル頭脳ゲーム」
2. パッケージ記載のキャッチコピー「そこにライオンは置けません!」
どちらもサバンナテリトリー以外に付けたら成立しない要素が盛り込まれています。
メインコピーは表紙なので、ゲーム性をシンプルに表現させました。「簡単に遊べて、少しは頭を使うようなゲームはないかな」という気持ちのお客様にダイレクトに訴えかけます。
一方、もうひとつのキャッチコピーは「引っ掛かり」重視です。「どういうこと?」と思わせてからの、より詳しく知りたいと思ってもらえるような心の導線を意識したコピーとなっています。
出たコピー案の中には直接的なものからもっとギャグっぽいもの(そこにヌーは置けヌ!)までありましたが、文字数や言葉のリズム、ゲームが持つジレンマをよく表しているところなどが評価されてこちらに決まりました。
・キャッチコピーはプロダクトの自己紹介だと考える
・伝えたい気持ちがあれば自ずとユニークさは生まれる
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こうした細かいこだわりで、サバンナテリトリーは出来上がりました。
他にも「説明書」や、通常は即ゴミになるような「チップを抜いた後のフレーム部分」などにもささやかなこだわりがあります。ボードゲームを開封する、という1度しか得られない体験をより素敵なものにしたいという思いからです。
素晴らしいゲームデザインを、素晴らしい体験へとつなげるホスピタリティ。ぜひ、実際の商品を見て感じていただきたいです!