働く人の数だけ、働く価値観があっていい
最近、文化人類学の観点から「働く」を考える音声配信にはまっている。そのなかで、アフリカの狩猟採集民の生き方を参照しながら、現代の私たちの働き方を捉え直すエピソードが非常に興味深かった。
狩猟・採集から近代的な生活へ
コクヨワークスタイル研究所と黒鳥社が配信する「働くことの文化人類学」は、文化人類学者の松村圭一郎さん(岡山大学)と様々なゲストによるトークが楽しめる音声配信だ。
第2話では、アフリカのカラハリ砂漠をフィールドに研究を手がける丸山淳子さんが登場する。彼女は南部アフリカで狩猟採集を営む「ブッシュマン」や、政府の開発プロジェクトなどを研究している。
丸山さんによると、現在はアフリカ政府による政策の影響を受け、ブッシュマンたちの生活も大きく変化しているらしい。伝統的な遊動・狩猟採集生活から、定住・集住生活に移行させるため、病院や学校を居住エリアに建設したり、公共事業の仕事をブッシュマンたちに与えたりと、いわゆる「近代的な生活」への改革を進めているそうだ。
私たちは、一つのことしかしない人?
ブッシュマンたちは、そうした新しい動きにどう対応しているのだろうか。研究では、下記のことが判明しているとのこと。
・新しい仕事に就いても、従来通り狩猟採集を続ける人が少なくない
・一つの仕事だけを続けることには、抵抗がある人が多い
・新しい仕事に関しては、おおむねポジティブに取り組んでいる
近代的な価値観から考えると「なぜ昔の(不便そうな)慣習を今でも続けているのだろうか」「働くというのは、普通は一つの仕事や職種を手掛けることを意味するのでは?」と疑問も湧いてくる。
しかしブッシュマン側には「新しいこと取り入れたとしても、過去の慣習を捨てる必要はない」という考えの基盤がある。たしかに、何かを選択する時は必ずしも二者択一ではないし、無理に新しいことばかりに目を向ける必要はない。
また、彼ら・彼女たちは、定住化政策を進める役人たちを「一つのことしかしない人」と呼ぶそうで、これには少し揶揄する意味合いもこめられているのだとか。
「一つのことを極める」というと、一般的な日本の価値観では高く評価される場合が多い。しかし、不安定さを前提に社会や人生を考えているブッシュマンたちのなかでは、一つのことしかしないのはリスクにもなり得るため、同時に色々な仕事を手がけることにこそ重きをおいているという。
正解はない。だからこそ、オリジナルの“働く価値観”を
日本の働く価値観と照らし合わせると、ブッシュマンたちのそれとは色々な面で異なっていることがみえてくる。
一般的な日本の働く価値観
・終身雇用にもみられるように、一つの仕事を長く続けるのが是
・専門を極める専門家やプロは高く評価される
・新しいものを取り入れる際は、古いものを捨てることも
ブッシュマンの考え方
・同時に複数の生きる糧や仕事と向き合う
・色々な技能を習得している方が良い
・「仕事」は誰しもが取り組めるものであって、やりたいかやりたくないかを決めるのは自分次第。そのため、「男性の仕事」「女性の仕事」という考え方は強くない。
場所が変われば、価値観や評価の軸ががらりと変わる。今馴染みのある働く価値観だって、何も決して「正解」なわけではない。
ライターとして働く私も、とにかく書く仕事をやらなくては!と思ってしまいがちになっていたが、少し肩の力をぬいて、色々なことをやってみたいなと思えました。ではまた!