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アジアビジネス入門68「令和の日本台頭論」@アジア人材エコシステム(3)

米国人の肯定的な日本の台頭論


 「今やカネよりもヒト」。東海エリアの信用金庫は顧客の中小企業から融資ではなく外国人材の補充を求められるという。信用金庫と関係のある大手の海外送金業者から聞いた話である。人口減少によって人材不足が加速する中、外国人材は地域経済や中小企業になくてはならない存在だ。
 人材不足で苦境にあえぐ現場の声を聞くたびに、悲観的になりがちであるが、米ブルッキング研究所東アジア政策研究センター所長、ミレヤ・ソリース氏の著書『ネットワークパワー日本の台頭-「失われた30年」論を超えて-』(日本経済新聞出版、2024年7月17日刊行)を読むと、グローバル化、日本の政治経済、地経学、地政学に関して肯定的に分析していることに少々驚いた。
 <日本の近年および将来の可能性を語るにあたり、「失われた20年」や「失われた30年」といった表現が支配的言説として使われる。この常套句に日本の読者が疑問の目をもってくれるように促すのが、本書の基本的なねらいだ
 そもそも執筆の狙いが叱咤激励的であり、多分にあおられる面があるが、一読に値する。

日本人の外国人観を「寛容」と分析


そして、注目したのは、日本の外国人材受入れについて『第2章 日本の外国人労働者』と1章を設けていることである。
 しかも、日本人の外国人観を「寛容」と分析しており、内向きと考えていた日本が意外とグローバル気質があることに気づかせてくれる。
 同著によると、2019年の入管法改正ではそれまでのタブーが解禁され、初めて単純労働者を対象とした在留資格が設けられ、その一部に長期定住への道も開かれている。多くの工業国で移民政策を縮小する方向で進んでいた時期に、日本の移民管理体制は自由化が進行したのだった。同様に、多くの先進工業国では外国人排斥感情で既存の政治システムや移民制度が覆され、より厳しい規制環境へと進んでいたのとは裏腹に、日本でそこまでの風潮が見られることはなかった。
 2019年3月のピュー・リサーチセンター(米国のワシントンDCを拠点にするシンクタンク)による調査でも、「移民によって国は強くなる」という設問に対して日本人回答者の59%が賛同を示しており、調査対象になった18カ国の中央値である56パーセントを上回っていた。移民を社会および文化に溶け込ませていくことへの前向きさについても、日本は他国を上回る(中央値45%に対し、日本は75%)。さらに日本の回答者の半分が、移民のせいで犯罪が増えるという見解を否定する答えを選択し、60%が、移民をテロリスク上昇と結びつけない認識を示した。別の複数の調査でも、外国人に対する不寛容な広がりは確認されていない。日本が外国からの単純労働者に対して正式に門戸を開いた時期に、こうした姿勢が見られるというのは、非常に興味深い発見である。

外国人材支援が日本の台頭に


 一方、同著の日本語序文には「ポストコロナのグローバル化」と見出しで次のように日本の外国人受け入れ政策が記載されている。
 <2024年春の国会ではさらに重要な法案が通過する。改正入管法案だ。技能実習制度を段階的に廃止し、代わりに非熟練外国人労働者の育成システムを整える。高度熟練労働者に永住も認めるビザプログラムを通じて、外国人単純労働者を積極的に迎え入れていくという、2019年から進めてきた取り組みをさらに強固にするもので(中略)外国人労働者の数は2023年秋に初めて200万人を超えたが、増大する外国人労働者が社会に溶け込むための十分な支援と、よりよい労働環境の提供という点で、今後いっそうの努力が求められる>
 現実を見ると、日本人の一部に外国人への偏見があることを完全に拭い去ることができないが、ミレヤ・ソリース流の日本台頭論の要因の一つに日本人の外国人への「寛容さ」があることを肯定的に捉え、外国人が労働者としてだけではなく生活者として社会に溶け込むことができる環境の整備を支援していくことが必要だと改めて思った。


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