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私的遣欧日記13・終

最終日。雨の予報だったが目が覚めると止んでいた。今日の昼の飛行機で帰国する。最後の散歩。この街も見納めだ。次回のために回りきれなかったお店の場所だけ確認する。改めて感じる無駄な色や形のないこの街の心地よさ。北欧に何度も訪れたくなるのがよく分かる。最後はいつものカフェでいつもの「NOT CHOCOLATE」。よい締め括り。

お世話になった近所のIrmaを横目に見つつ、駅へ。思えばここでスリにあったのがコペンハーゲンの旅の始まりだった。たしかにいくつか失ったかもしれない。でも、それ以上の何かを受け取った旅だった。あの時見た彩雲はやはり吉兆だったのだ。

イルミネーションに彩られた空港。どこまでもクリーンで明るい。たぶんまたここに戻ってくる。そんな予感とともに飛行機に乗り込む。トランジットまで8時間。暖かな機内。うつらうつら夢をたくさん見る。ここはどこでもなく、いつでもない。時空の間を飛び、着くと違う国で、時間が巻き戻ったり、進んだりする。私の世界に深く入る。パリで、コペンハーゲンで、新しく出会った方の顔が次々に浮かぶ。Arnaudさん、Benさん、Malteさん、ゆきこさん、シモンさん。カフェで、レストランで、道で、駅で、警察で、大使館で、ギャラリーで会った、名前を知らない優しい人々。アンパンマン、先生、茶節団の仲間たち。4年前の桜が現れる。今また満開に咲く。一人ひとりの顔が浮かんでは消え、そのたびに温かい気持ちが残る。これからやりたいことがいっぱいある。「カチリ」。音が聞こえる。次元が切り替わった音。我々夫婦は、いやきっと仲間たちも、また新しい段階に入る。学び、決意、変化、ご縁、そして「あい」。この旅はそういう旅だった。

懐かしい雑音。過剰な光と色の洪水。東京に戻ってきた。ここでやれることをやる。進めるだけ進む。遣欧茶節団が再集結するその日まで。心に灯った火を育てながら。

【完】

※いや、【続く】かな?笑

2019年11月3日

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正垣文
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