物語系統樹プロンプトを使ってOpenAI o1で物語の由来を調べてみよう!
最初にお知らせ。
インプレス様より「小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる」が10月17日に刊行されることとなりました!
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背景
先日発表されたOpenAI o1モデルは「推論」にすぐれています。「数学に強い」などとも言われていますが、「推論」を応用すれば、別に人文系のテーマであっても活用できるシーンはあると私は直感的に感じていました。
そこで、物語の由来を「物語の類似度」と「進化系統樹」という科学的手法で分析できないかを試してみたところ、割といい出力を得ることができました。
結果: 「かぐや姫」の進化系統樹の出力
以下は「かぐや姫」の物語の進化系統樹を分析した例です。
<出力結果>
結果を見ると、中国の「嫦娥」は「月から来た女性が月へ帰る」という強い類似性がありますし、「天女と羽衣」も「天から来た女性が天へ帰る」というレベルで近いといえます。
「天の川の伝説」は織姫と彦星の話で、地球へやってくる話ではありませんが、「隔たれた男女の恋」は「月出身のかぐや姫に地球の多くの男性が求婚した話」と近いです。
「浦島太郎」、ギリシャ神話のペルセポネ、インドの「イナンナの冥界下り」も「異界へ行って帰る」という共通項があります。
「星の娘の物語」は、検索すると確かにネイティブアメリカンの絵本があるようなので、似た話の可能性がありそうです。ただしここでは年代不明となっていますが、地理的要因を考えると、「かぐや姫」や「嫦娥」がアイヌやイヌイットを経由して北米に伝わった可能性が高いように思います。
考察: 物語の由来調査などいろいろ応用できそう
こうしてみると、それなりに正確性のある結果を得られたと言っていいのではないでしょうか。しかも「星の娘の物語」は過去に類似性が指摘されていたかも分からないので、きちんと調べればそれなりに新規性のある研究成果になるかもしれません。
もちろん「かぐや姫」の由来については膨大な先行研究があり、私もそれに詳しいわけではないので、不十分だと捉える方もいると思います。
実際、調べてみると、例えば以下のページでは、人が竹から生まれる話が東南アジアに多くあることに触れられています。
こうした点を考慮すると、「ありとあらゆる物語の知識を考慮して、類似性の高い物語を抽出できている」とは言えないでしょう。
しかし「かぐや姫」のように有名な作品ならまだしも、マイナーな作品はその由来がまとめられていないことが多くあります。そのような場合、自分で図書館をめぐって地道に調査するしかありません。
でもこうして生成AIを活用することで、マイナーな作品であっても内容の類似性から似た作品を簡易的に抽出できるはずです。もちろんそれは完璧な検索結果ではないことに留意すべきですが、調査のとっかかりとしては十分な検索結果だと私は思います。
特に私は小説を書く身として、自分がこれから書こうとしている作品と似ている作品が過去にあるかどうかを知りたい場面が多くあります。もし類似する作品がすでにあるのであれば、自分なりの工夫を加えるなり、別のテーマにするなりしなければなりません。しかしテーマやあらすじが似た作品を検索して探すことは非常に困難です。そういった時にこの手法を使うことで、抽象的なレベルでの類似性を簡易的にチェックできるのではないかと期待しています。著作権侵害のチェック技術にも応用できるかもしれません。
これまでの作品の系譜から自分の作品のポジションを見極められるというポイントも大きいように思います。例えば、小説を書くAIをテーマにした作品では、これまでAIが人間の敵として描かれてきたけれど、自分の作品では人間と協力するサポーターとして描いているのだ、というポジションが見えてくると、作品をより良くできそうです。(私の星新一賞受賞作『あなたはそこにいますか?』は、まさしくそこに位置しているのではないかなと勝手に思っています)
物語系統樹プロンプト
私がいろいろやってみて、少し改良したプロンプトは以下です。
今回使用したそのままのプロンプトは以下です。
「対象の物語を根としたツリー構造」の語句は、ツリーの中の年代がバラバラになることがあったので追加しました。
おまけ: 『銀河鉄道の夜』に影響を与えたものを調べる
専門分野に「科学史」を入れるなど改変して、科学的発見がどう影響したかを調べるのにも応用できそうです。またキーワードを追加で指定することもできますが、その場合はやや偏った結果になる印象でした。近代以降は情報の国際的なやりとりが活発になっており、地域の距離の情報はあまり有効ではないかもしれません。
おまけで、以下に『銀河鉄道の夜』に影響を与えたものを出力した例を2つ載せておきます。ちなみにWikipediaによると『銀河鉄道の夜』の初稿は1924年頃で、1933年の没後、1934年に出版されたとのこと。
①
<出力結果>
②