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小説家志望がすすめる青空文庫の面白い作品 その2 江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」

 今回は日本の推理小説と言えば、即座に名前が思い浮かぶ人も多いであろう江戸川乱歩の作品から「屋根裏の散歩者」。

 前回の第1回では、国語便覧に絶対にキメ顔の写真付きで掲載されている、芥川龍之介の作品を紹介した。その続きで、今回も便覧で真面目くさった顔をしている文豪の作品を選ぶ予定だった。しかし、問題が発生。

 紹介したかった作品が、私の知識不足で実は著作権が切れていなかった。加えて別の作品を選ぼうにも、時節柄あまり出歩いている話は選びたくなかったため、作品選びは非常に難航した。

 結果的に、作品の舞台が主に家の中である「屋根裏の散歩者」に決めた。しかし、ここで「なんだよ。勿体ぶっておいて、江戸川乱歩かよ」と思われる方もおられるだろう。恐らく、この感想を抱く理由は2通りあり、1つは児童文学の明智小五郎のイメージが強い方。もう1つは、ミステリーや大衆文学をかなり読んでおられて「今更何を」と思われる方。どちらの方にも、あるいは既に読んだことがある方にも、新しい発見になれば幸いだ。

 前置きが非常に長くなってしまったが、「屋根裏の散歩者」を紹介する。

 まずは、この作品のあらすじ。実家からの仕送りで生活している、主人公の郷田三郎は、引っ越し先の新築アパートの部屋から、屋根裏に上がれることに気付く。散歩しながら他の入居者の秘密を覗いていく内に、人知れず殺人ができるのではないか、という疑念が頭をもたげはじめる……というものだ。それでは、この作品の推しポイント3つ。

推しポイント1:押し入れの中が寝床?!家の新発見

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 主人公の郷田は、様々な遊びに手を出すものの、すぐに飽きてしまう性格の持ち主。その郷田が新築アパートで見つけた遊びが、この押し入れに布団を敷いて寝る、というものだ。かなり魅力的に描かれており、家に押し入れがあったら、即座に試したくなるレベル!

推しポイント2:気持ちはさながら忍者!?散歩の描写にドキドキ

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 屋根裏を散歩して、近隣住民の秘密を人知れず垣間見る郷田三郎。暗がりで隙間から覗き込む姿は、さながら敵の城の天井裏に侵入した忍者のようで、ドキドキすること間違いなし! 普段暮らしている家も、一瞬で非日常の世界となる描写は、まさに秀逸。

推しポイント3:思わず感情移入してしまう、郷田三郎

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 この小説は郷田三郎を中心として描かれているため、探偵視点からの推理小説では知りえないことも追体験できる。明智小五郎を大胆に煽る場面は、郷田と一緒にほくそ笑んでしまうかも!? 普段は頼もしい明智が、思わず疎ましく見えてしまうこと請け合い。


 ミステリーとしては微妙、と評価を下す人も居るらしいこの作品だが、その点が作品の全てだとは思わない。特に日常から一瞬で見たことのない世界へと誘う手管は、鮮やかの一言に尽きるため、ぜひ一読してみて欲しい。
 皆様の読書が、より豊かなものとなりますように。

〈絵と文 足羽椋子〉


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