【創作大賞感想文】モモタマナと泣き男
今月で noteの5年目に入ったと知らせが届いた。
長いのか短いのか皆目見当がつかないが、 noteは楽しい。
楽しいことは、出来たら続けていきたい。
みなみつきひさんは、note初期の頃に出会った方だ。
私は「つきひさん」と呼んでいる。
大好きないちご牛乳さんがそう呼んでいるから、真似をした。
いちご牛乳さんとつきひさんは仲良しで、おふたりがコメント欄でお話しているのを見るのが好きなのだ。
つきひさんの創作は、以前から拝読していた。
noteの中でも外でも、つきひさんは書いている。
最近だと、伊豆文学賞の掌編部門優秀賞を受賞した『闇を照らすのは』だった。
味わい深い物語を描く方である。
食べものの描き方が抜群に私好みであるのと、穏やかな文章でありながらも、的確にじわり、じわりと急所を突いてくる。
『闇を照らすのは』の主人公は、両親を交通事故でなくした由羅。
ひとりになってしまった由羅は、祖母の家で過ごす。
食欲のない由羅になんとか食べさせようとする祖母が、料理を作っている場面。
霞のように静かに漂う翳りが、辺りの陰翳を濃くし、気がつけば薄闇の中にどっぷりと身を置きながら読んでいる。
ああ、そうか。そうだったのか。
読了後に本から顔を上げれば、辺りの闇は晴れて、私はまた現実に戻っているのだった。
創作大賞に応募された作品は、タイトルから期待が高まった。
モモタマナ。
泣き男。
「泣き女」は聞いたことがあるなぁ……とぼんやりな記憶を手繰る。
物語は、主人公の真那が、まことを連れて実家に帰る道中から始まる。
船酔いしているまことを介抱する真那。
彼女の心の内側、外からとりまくもの。
ああ、これは………つらいよね……。
第1話で既に、真那の味方をしたくなってくる。
この先に起こるハプニングの予感に緊張しつつ、まことの愛らしさに安堵する。
まことが可愛い。
物語の最初から最後まで、ずっと可愛い。
夫の連れ子である、まこと。
真那の実家がある島に連れてこられ、ここでの暮らしに慣れていけるのだろうかと、読みながら心配に思う。私のなかにも、不安を思う"もや"が漂い始める。
真那も同じだったであろう。
申し込んでいた車種と異なるたばこ臭のあるレンタカーのハンドルを握りながら、かつては住んでいた場所の、真新しい景色と対面する。
ここは海に囲まれたところだ。
そこに突然現れたサワオ。
ぶっきらぼうで失礼な態度。
初対面である真那のことを前々から知っていたかのような、ミステリアスな「泣き男」である。
真那とサワオの関係は、良好とは言い難い。
異世界の空気を醸し出すサワオに戸惑い、サワオのずけずけとした物言いに反発する。
サワオと同じく真那を驚かせたのは、自分の旧姓(桃田真那)でもある「モモタマナ」と称した民宿だ。
母が営む民宿「モモタマナ」を、真那は住み込みながら手伝うことになる。
庭には「モモタマナ」の木が植えられている。
冬から春にかけて紅葉する木で、「涙で育つ木」とも作品の中で語られる。
モモタマナは物語にたびたび登場し、つよい生命力とも、ややミステリアスな異質なものとも感じられる。サワオのような。
タイトルにある「モモタマナ」の意味を知ることができ、私は嬉しくなった。
泣き男のサワオとモモタマナが結びついた。きっと、大丈夫だ。
真那の薄闇が、いつか晴れていくと期待を抱く。
真那とまことをやさしく迎え入れる母。
関係を築くことが難しい父。
距離をとりたいと思っていた同級生との思わぬ再会。
サワオに会いにくる民俗学の研究者から聞く話。
真那が、島に来る前に悩みを抱えていた夫のこと、まことのこと。
父とのこと。
心のなかに抱えるさまざまな思いや人との関わり。
「弔いの式」や、島の人々との暮らしを通して、少しずつ変化していく。
ここにはサワオの涙があり、モモタマナの木があるからだろうか。
それだけではないと確信する。
特別なことだけではないと思う。
自分の心を開くこと。
死を迎えた人を皆で見送ったり、「泣く」ということについて考えたり、かつて苦手であった人との新たな時間が流れ始め、真那の気持ちがゆるやかに変わっていく。
かたちも大きさも違う波のように、ひいては寄せてを繰り返しながら。
物語のエンディングは海。
真那とまことが波打ち際を歩く。
海に向かってモモタマナの実を投げる場面の真那が、頼もしい。
まこともまた、この場所に来て変わったと思う。
水平線を見つめた後、ふたりは確かな足どりで歩き始めるのだろう。
いつか誰かが、どこかの地に流れ着いたモモタマナの実を拾うかもしれない。
読了後に物語から顔を上げれば、私を囲っていた闇は晴れ、真珠色のやさしい光に包まれていた。
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