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おかえり、ピッコロ
◯月◯日にいなくなってしまいました
名前は「ピッコロ」
キジトラ
しっぽが長いです
マイクロチップが埋め込まれています
人見知りします
ゴミ集積所横の電信柱に貼ってあった「ねこをさがしています」
月曜と木曜の朝、くりかえし読んだ。
連休が始まる少し前から貼られていた。
どこに行ってしまったのだろう。
何かあって、おうちに帰れなくなっちゃった?
自分から少し長めのお散歩に出ただけかな?
ご家族はさぞかし心配しているだろうな。
ピッコロ、いま、どうしているの?
◇◇◇◇◇◇
我が家の子ども部屋は、セミダブルサイズの布団を二枚並べ、兄弟がそれぞれで寝ている。
小4の次男が寝つくまで、夫が次男の横で寝ている。
子ども達は数年前から子どもだけで眠られるのだが、夕飯後に少しでも早く布団で横になりたい夫が
「お父さんの場所」
として寝っ転がる。
体温高めの巨体に半分以上領域を取られる次男は、長男との境い目に溝ができるのを嫌がり、「隙間っ」と言っては二組の布団がぴったりくっつくよう引き寄せる。
たいてい、いちばんに寝息を立て始めるのが夫。
喋っているよりうるさいいびきの時もある。
夫は1時過ぎに起きて、自分の部屋で録画してあるテレビ番組を観ながら寝るか、または屋上で空手の型や武器の特訓をしてから寝る。
(深夜の訓練は、誰にも見られず怪しまれないから良いのだそうだ。昼間だったら通報されるかもと恐れている)
長男は最近寝る時間がかなり遅くなった。
中学生だから、9時半に寝なくても平気なのだと言う。
スタンドの灯りで漫画『日本の歴史』か、鉄道関係の本を読んでいる。
私は暗闇のなかで子ども達の足の裏をもんだり(私は足裏マッサージが好きだ。するのも、されるのも)自分の身に起きたどうってことない出来事を話したり、兄弟の話を聞いたりして過ごす。
9時半に次男が寝たのを確認し、長男に「おやすみ。あまり遅くならないようにね」と声をかけてから自分の部屋に行く。
◇◇◇◇◇◇
「ピッコロ、まだ、見つかってないみたい…」
就寝前のおしゃべりタイムに、私が「ねこをさがしています」の話題を持ち出したのは、もう何回目か。
我が家では全員がピッコロの行方を気にしていた。
「お母さん、そうだ!あのね!ピッコロ見つかったみたいよ!!」
次男が急に半身を起こした。
「え?そうなの?今朝まだ貼ってあったけど」
「うん、あれね、ぼくの通学路にも貼ってあるのね。今日、ぼくが学校行くとき見たら『帰ってきました。ありがとうございました』って書いてあったの」
「そうか、そうかー、ピッコロ帰ってきたんだね。よかったぁぁ」
「ピッコロ、〝くろしろ”と遊んでたんじゃね?」
長男も会話に加わった。
〝くろしろ”というのは、私達家族が勝手にそう呼んでいる地域猫。
長男はくろしろにやたらと親近感を抱いている。
「そうかもしれないね。くろしろが、ピッコロにそろそろおうちに帰りなよ、って言ってくれたのかもね」
「くろしろならこの辺のねこのこと、詳しいだろうしな」
目はつぶっていたがまだ寝ていなかった夫も、ピッコロの帰還を喜んでいる。
「お母さん、もう見つかったのになんでまだ貼ってあるんだろう?すぐはがせばいいのに」
次男が聞いてきたので、
「きっと、心配してくれた人たちにお知らせしてくれてるんだよ、ピッコロ無事帰ってきました、心配してくれてありがとう、ってさ。だってほら、こうやって( 次男 )がそれを読んで教えてくれたから、私達わかったでしょう? 教えてくれてありがとうね」
次男は嬉しそうな表情を浮かべ、目をつぶった。
ピッコロ、本当によかった。いまはおうちにいるんだね。
ピッコロが帰ってきたことを、次男の口から聞けたことが、嬉しさを何倍もにしていた。
◇◇◇◇◇◇
noteの街でも、
いつかまた戻ってきたいと思います
ちょっとおやすみしたいです
というメッセージを受け取ることがある。
その人の書く文章が好きだから
読むのをいつも楽しみにしているから
メッセージを目にしたときは、胸がぎゅう……と苦しくなるのだけれど、
出逢えたことややりとりしたことや、文章のちからでたくさん元気をもらえたことを思い出すことにしている。
おかえりなさいを言える日を、嬉しく待てる自分でいたいと思う。
たとえこの先に、本当のおかえりなさいがなかったとしても。
読むことに費やせる時間配分が難しくなってきて、自分とnoteとの付き合い方も見直したいと思いながら変えたアイコン。
書くことに、もっと向き合ってみたいと思って、自分の顔にしたアイコン。
ピッコロみたいに長い散歩に出ることがあっても、また戻ってきたいと思える場所。そこが見つかったことが、私にはとても嬉しい。
ゴミを出しに行くと、「ねこをさがしています」は剝がされていた。
おかえり、ピッコロ。