SLパレオエクスプレスの旅
「そういえば、SLにまだ乗ったことがないね」
誰が言い出したのかも忘れてしまったのだけれど、何気ない家族間での会話中に出てきた〝SL”というワードに私ひとりが妙に反応してしまった。
もうすぐ春休みだし、乗りに行こうではないか!
我が家からいちばん近くでSLに乗れるところはどこ?と検索。
あった。これだ、「SLパレオエクスプレス」
池袋から「特急レッドアロー」で西武秩父駅下車。そこから御花畑(おはなばたけ)駅まで5分くらい歩いて、秩父鉄道に乗って黒谷和銅(くろたにわどう)駅下車。
黒谷和銅の温泉宿に一泊して、翌日、秩父鉄道で長瀞駅まで。長瀞から「SLパレオエクスプレス」に乗る。御花畑駅までのSLの旅。そして帰りはまた西武秩父からレッドアローで池袋。どうですか、このお母さんプランは?
「いいね!いいね!いいね!」
長男絶賛。ありがとうございます。
「おれ、レッドアローにも乗りたいわけよ。これなら往復レッドアローだし、SLにも乗れるんでしょ、うひょー!」
「SLって何?」と言っている次男もすでにワクワクした表情。長男が「ほら、あのトーマスに出てくる日本のやつだよ、黒いの」と雑な説明。ヒロ、すまぬ。
「この辺では走っていない電車だよ、ああ、電車じゃないね、蒸気機関車っていうんだよ。電車は電気の力で走るけど、蒸気機関車は蒸気の力で走るんだ。ちょっと難しいよね」
次男よ、乗ればわかる。普通の電車とは違うことがきっとわかるから。さあ、乗りに行こう!
大きな黒い生きもの
長瀞駅ホームでSLパレオエクスプレスを待っていたら、たくさんの人だかり。これから乗る人だけではなく、撮影をしたい人も、一目見たい人も、みんな集まってきているような熱気だ。
ボォーォーォーと大きな汽笛が鳴り、シュッ、シュッ、シュッ、シュッとリズミカルな音をたてSLがホームに入ってきたとき、大きな真っ黒い生きものが静かにぬうっと現れたようだった。
一斉にカメラのシャッター音が鳴り響き、あたりには石炭とけむりのにおいが強く立ちこめた。うちの兄弟は初めて見る「動くSL」に驚き、若干引いているようにも見える。そうだよね、大宮の『鉄道博物館』に展示してあったのが動いているのだもの。いつも見ている電車や地下鉄とはぜんぜん違うものね。
私たちが乗ったのは長瀞ー御花畑間の30分弱、SLに向かって手を振ってくださる方々がたくさんいて、こちらも車内から手を振って、心あたたまる乗車時間だった。長瀞駅のホームではやや緊張気味だった兄弟も、車内ではリラックスして、デジカメで一生懸命車内や窓からの景色を撮っていた。
鉄道ファンにも地元の方にも大勢に愛されて今も現役で走っている。すごいなぁ、がんばっているなぁ。これからも力強く走り続けてほしい。
これは3年前の春休みで、その時でよかったとつくづく思う。
今だったら、乗れない。今の我が家はSLに乗ってはならない。
車内では兄弟喧嘩勃発に間違いない。
『鬼滅の刃』ファンの次男と、アンチ『鬼滅』の長男の果てしない口喧嘩、夫と私が注意しまくってもそれは止まず、夫婦でまわりの乗客の方々にひたすらペコペコ頭を下げる図が浮かぶ。
「ぼくJR九州の『無限列車』に乗りたかったよ!九州の人たち、いいなー」
と嘆く次男に
「へへーん、ダメなんですぅー。不要不急ですぅー。あんなのに乗るのは、かまぼこなんとかと、妹と、黄色い頭のやつと、いのししと、弁当食う金髪のげじまゆおっさんだけなんですぅー」
とからかう長男(嫌いというわりにかなり正確に把握してるな…)の喧嘩をしなくなったら、またSLの旅を楽しめるはず。そう願っている。