マガジンのカバー画像

小説

87
異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
運営しているクリエイター

2020年10月の記事一覧

勝手にルーンナイツストーリー 『灰よりふたたび』

プレイ日記 プロローグへ
『ザイに吹く風』へ

 ため息が出る。
 キャンバスを前に、朝から座り続けていたが、いっこうに筆が動く気配はなかった。
 まっさらな、乾いた布地。
 まるで私の心のようだ――ティルダは口許に自嘲の笑みを浮かべた。
 布地ごしに見えるのは、失った輝き。
 いまはもう手の届かない、愛した獣たちと過ごした日々。
 あの頃は、なにもかもが美しいと思えていたのに。

 おなじ姿勢を

もっとみる

勝手にルーンナイツストーリー 『ザイに吹く風』

プレイ日記 プロローグへ
『黒血の拳』へ

 黒い点――列を成し、地面を這いまわっている。
 広場の石畳が尽きる土の上を。
 陽に灼かれても。風に吹かれても。
 飽くことなく。倦むことなく。
 なにかに突き動かされるように、この生き物――アリたちは、ただひたすらに進み続ける。
 屈んで眺めていたルドは、なんとはなしに、石を手に取った。
 子供の手のひらには収まりきらないほどの大きな石だ。
 それを

もっとみる