葦原青

作家。 『遥かなる虹の大地 架橋技師伝』(中央公論新社C☆NOVELSファンタジア)にてデビュー。 最新刊『僕の巫女ばーちゃん?』 記事は小説の他、映画感想、レビュー、ゲーム関連等。不定期更新

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    異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中

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『バラックシップ流離譚』

 彼の船は、一切が謎であった。  何時《いつ》、何者《だれ》が、何の目的で建造したのか。  それを知る者は、生者にも、死者の中にも存在しなかった。  人が落ちれば一瞬にして原子にまで分解される虚無の海――  その海原を、彼の船はあてどもなく彷徨い、他の尋常の船ならば様々な港を渡ってゆくように、異なる次元に存在する世界群を行き来する。  たどり着いた先々では、素性の知れぬ――その世界での居場所を失った者どもが次々に乗り込み、船の新たな住人となった。  居住区――甲板上に築か

    • 勝手にルーンナイツストーリー 『啓蟄』

      プレイ日記 プロローグへ 『盤上の夢』前編へ  生まれる前から背負わされていた。  かくあるべしと定められていた。  この――掌中にある短剣《ダガー》と同じだ。  ある目的のために考案され、そこに向かって鍛えあげられた。  打たれ、研がれ、磨かれ続けたふたつの道具は。  異物であった魂同士は。  いつしか溶け合いひとつとなった。  己の意思と感覚が、鋭くとがった先端にまで伝わっている。  獲物の皮膚を破り、肉を裂き、骨さえも断って、ついには命へと到達する。  突き立てると命

      • ゆけ! 輝ける瞬間を胸に抱いて 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』感想

        『イニシェリン島の精霊』評へ  ハリー・ポッター役として誰もが知るダニエル・ラドクリフが死体役として登場し、無限に水を吐いたり、おならで海を渡ったりする。  そんなヘンテコ映画『スイス・アーミー・マン』を撮ったダニエル・シャイナート&ダニエル・クワンの新作。  しかも配給は前作と同じA24。  これは絶対にヘンな映画だ。  ヘンな映画ならば観ねばならぬ。  結果は私は、期待に違わぬ怪作を目にしたわけである。  予告  本作は前評判も高く、私が劇場に足を運んだ時点でアカデ

        • 喜劇の歯車は回る 『イニシェリン島の精霊』評

          「2022年シネマベスト10」へ  幸せとは「仕合せ」とも書き、あるものがあるべきところに収まっている――言うなれば「歯車が噛み合った状態」を指すという。  主人公パードリック(コリン・ファレル)は、ある日突然、親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)から「お前が嫌いになった」と告げられる。  いつものパブに居づらくなり帰宅すると、客人の相手をした妹から「なんで帰ってくるの」となじられる。  ひとつのズレはもうひとつのズレを生み、さらにさらにと連なってゆく。  ずっと続くと思

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        『バラックシップ流離譚』

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        • ゆけ! 輝ける瞬間を胸に抱いて 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』感想

        • 喜劇の歯車は回る 『イニシェリン島の精霊』評

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          2022年シネマランキング ベスト10

          『ラム/LAMB』評へ  新年あけましておめでとうございます。  毎年劇場で鑑賞した映画の中から面白かった作品を選出し、短評つきで紹介するこの企画。  今年は映画記事をほとんどあげられませんでしたが、細々とでも続けていきたいと思っているので、よろしくお付き合いのほどを。  それではさっそく―― 第10位 『女神の継承』  『哭声/コクソン』のナ・ホンジン原案によるホラー。  ドキュメンタリー・チームがタイの田舎町で女神に仕える巫女を取材するが、彼女の姪が不可思議な行

          2022年シネマランキング ベスト10

          それは歪な罪のかたち 映画『ラム/LAMB』評

          『犬王』感想へ  ふつうの映画に飽きたなら、ちょっと変わった映画が観たいと思ったならば、ここの作品を選んでおけば間違いはないでおなじみの映画製作会社A24。  本作はA24製作ではなく配給作なのだが、お出しされてきたのはアイスランドを舞台とした、やっぱり風変りな作品でした。   娘を失ったばかりの夫婦の牧場で、飼っていた羊が奇妙な仔を産み落とす。  夫婦はその仔羊に死んだ娘の名を与え、大切に大切に育てるが――  予告  この予告編があまりに出来がよく、期待値が高止まり

          それは歪な罪のかたち 映画『ラム/LAMB』評

          もっといけ‼ どんどんいけ‼ 消されし者どもの存在証明 映画『犬王』感想

          『シン・ウルトラマン』感想へ  時は室町。日の本がふたつの天を戴いていた時代。  異形の能楽師・犬王と、琵琶法師・友魚のバディが繰り広げる絢爛豪華な舞台劇。  そのうねりは人々の熱狂を呼び、やがて将軍・足利義満の知る所となる――  予告  圧巻。圧巻である。  音と光、エモーショナルな歌声にアニメーションの快楽。  中世日本にロック・ミュージックをブチ込み、謡い上げるは顧みられることなく忘れ去られようとしていた者たちの魂の叫び。  いうなれば『ボヘミアン・ラプソディ(2

          もっといけ‼ どんどんいけ‼ 消されし者どもの存在証明 映画『犬王』感想

          人外視点のファースト・コンタクト 『シン・ウルトラマン』感想

          『オッドタクシー インザウッズ』感想へ 『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン』に続くシン・シリーズ第三弾。  1966~67年に放送された『ウルトラマン』、いわゆる初代ウルトラマンのリメイクにして総集編。  今作では庵野秀明は脚本・総監修、その他諸々関わっているものの、監督は樋口真嗣が務めている。 予告 『シン・ウルトラマン』は、公開前から多数の予想、考察、憶測がなされていた作品だ。  そもそもエヴァンゲリオンが庵野版ウルトラマンといってよい作品で、シン・ゴジラがそ

          人外視点のファースト・コンタクト 『シン・ウルトラマン』感想

          存在すら定かではない‟真相” 『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』感想

          「2021年シネマランキング ベスト10」へ  漫才のような会話、周到に仕込まれた伏線、衝撃の展開――おそるべき脚本力と、Youtubeと連動したメディア展開で話題になったTVアニメ、オッドタクシーの劇場版続編。  オペレーション・オッドタクシー実行の少し前。  一連の‟事件”に関わった人物たちへのインタビューにより、「真相」に別の角度からの光があてられる。 予告  オッドタクシーとは、ざっくり言ってしまえば動物を擬人化したキャラクターたちによるサスペンス・ミステリであ

          存在すら定かではない‟真相” 『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』感想

          2021年シネマランキング ベスト10

          『キャンディマン』感想へ 『2020年シネマ10選』へ  劇場で鑑賞した映画作品の中から面白かったものを10作選ぶこの企画、今年で3回目となります。早いものですね。  候補作は全71本。  昨年は順位をつけずに選出したのですが、やはり日和っていた感が否めません。  なので今年はちゃんと順位をつけていこうと思います。  記事を書いている時の気分という説もありますが気にせずに。 第10位 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』  アニメ作品としてだけでなく、ガンダム映画と

          2021年シネマランキング ベスト10

          勝手にルーンナイツストーリー 『盤上の夢』後編

          プレイ日記 プロローグへ 前編へ  マリアンナ海域から吹く風が、大平原を撫でてゆく。  ミレルバの旧領ミルヴィン――マナ・サリージア法王国に占拠されたその街を解放するために、コンラートは軍を進めてきた。  ソニアからの便りは長らく途絶えていた。  その生死すらたしかめるすべもなく、時ばかりが過ぎてゆく。 「大丈夫ですか、コンラート様」  副将のダイアナが、気遣わしげに訊ねた。 「なんだかお疲れのごようす」 「……大事ありません」  さすがに占い師の勘は鋭い。  焦燥

          勝手にルーンナイツストーリー 『盤上の夢』後編

          勝手にルーンナイツストーリー 『盤上の夢』前編

          プレイ日記 プロローグへ 『Chase! Chase! Chase!』へ 「ねえねえエルザお姉ちゃん」  執務室の机にあごを載せた体勢で、シュガーが話しかけてきた。  眉間にしわをよせて書類と睨み合っていたエルザは、顔をあげると同時にため息をついた。 「シュガー。仕事中は騒がしくしないでっていってるでしょ」 「根の詰めすぎはよくないよー。お姉ちゃんが倒れたら、共和国軍はお終いなんだから。ほらほら、かわいい妹分が息抜きにつきあってあげますよ」 「あなたが遊びたいだけじゃな

          勝手にルーンナイツストーリー 『盤上の夢』前編

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・24

          この話の1へ 前の話へ 〈図書館〉の中庭には、来館客にほとんど知られていない一画がある。  真ん中に白いテーブルがひとつ置かれ、周囲の芝生も木々も手入れが行き届いている。  外からの喧噪は届かず、小鳥のさえずりや虫の声が聞こえてくるだけの穏やかな空間。  利用できる者はごく限られており、それ以外の人間が訪れることはほとんどない。  そんな場所に、ふたつの人影があった。  ひとりは特別客員司書ニーニヤ・レアハルテ。  テーブルを挟んだその向かいに、年老いた猿人《エイブン》の男

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・24

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・23

          この話の1へ 前の話へ  ぐわん、ぐわん、と割れ鐘のような音が脳髄を揺らした。  意識の糸が、いまにもぷつんと切れそうになる。  それでも、まだ。  生きている。かろうじてガードが間に合った。  籠手がひしゃげ、右腕に信じられないほどの熱さを感じた。  おそらく折れている。指をちょっと動かすだけで激痛が走った。  だが、おかげで気を失わずに済んだ。 「レムトの剣技は我流だが、基本の型は正統の流れを汲むものだ」  ゆらりと構えながら、ラ=ミナエがいった。 「お前の動きは

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・23

          合わせ鏡の無間地獄 映画『キャンディマン』感想

          『プリンセスプリンシパル 第2章』感想へ  鏡に向かい、「キャンディマン」と5回唱えると、怪人キャンディマンが現れる――  本作は1992年に製作された、都市伝説モチーフの同名ホラー、スラッシャー(殺人鬼)映画の直接の続編である。  1992年版の後に『キャンディマン2』『キャンディマン3』と作られたが、そちらは‟なかったこと”になっている模様。ホラー映画ではよくあることだ。  新進気鋭の黒人画家アンソニー・マッコイは、新作のモチーフを得るために、かつて多くの黒人が居住

          合わせ鏡の無間地獄 映画『キャンディマン』感想

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・22

          この話の1へ 前の話へ 「もう来たのか」  ニーニヤは忌々し気にくちびるを歪めた。 「まさか、ミツカはやられたのか?」 「確認するかい? キミのお友達が、ドアをぶち破って他人の家にあがり込むタイプなら必要かもだけど」 「逃げるぞ!」  ふたりは窓から飛び出した。  破壊音は止まない。  間違いなく、ラ=ミナエは追ってきている。 「逃げ切れると思うかい?」 「難しいな。それに、この場はしのげたとしても、お前は有名人だ」 「え?」 「……自覚がなかったのか? 〈記録魔《

          『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・22