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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2020年2月の記事一覧

『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・5

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 妙な気分だった。
 アステラと名乗った女の顔が脳裏から離れない。
 たしかに人目を惹く容姿ではあったが、美しいというだけでは説明がつかなかった。
 思わず見惚れるほどの完璧な所作。
 いまひとつ意図の読めない言動。
 探りを入れようと踏み込んでも、慇懃に、しかしきっぱりと示された拒絶。
 トブラックの社員が、ゼラーナの通う店に、鑑定を依頼しに訪れた――そこに、怪しいと言

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・4

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 その日、ゼラーナが馴染みの骨董品店に立ち寄ると、店主が困った顔をしていた。

「どうしたんですか?」
「ああ、よかったよゼラーナちゃん。アンタに会いたいって人が来てるよ」

 鼻の下にたくわえたヒゲをもぐもぐさせながら店主が目配せした先に、一人の女性が立っていた。
 痩身にして長身。仕立ての良いスーツを身に着け、いやに背筋がピンとしているのが印象的だ。
 無言で棚の商品

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