『バラックシップ流離譚』
彼の船は、一切が謎であった。
何時《いつ》、何者《だれ》が、何の目的で建造したのか。
それを知る者は、生者にも、死者の中にも存在しなかった。
人が落ちれば一瞬にして原子にまで分解される虚無の海――
その海原を、彼の船はあてどもなく彷徨い、他の尋常の船ならば様々な港を渡ってゆくように、異なる次元に存在する世界群を行き来する。
たどり着いた先々では、素性の知れぬ――その世界での居場所を失った者どもが次々に乗り込み、船の新たな住人となった。
居住区――甲板上に築かれた建造物の集積は、新たに住人が増えるたび膨れあがる。
貪欲に。
際限なく。
かくして顕現したのは、まるで混沌を具現化したかのような一個の都市であった。
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