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前日譚②:『移動本屋と出会った運命のはなし』 ーあの時、鐘が鳴ったはずなのにー

移動本屋を開業する予定のたけだです。開業に際して前日譚を書いていきます。前回の『前日譚①』はこちら

今回はこの続きから綴っていきます。


本屋を営む計画

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「本屋を営む計画」と言っても、大それた話ではない。老後にやりたいことの1つとして、頭の片隅に置いてあった程度である。
その計画では、僕は何かしらの作家として大成し、本の印税で街にレトロな本屋を開く。僕は本棚にしれっと自分が描いた作品を並べ、書店員のフリをして自分で自分の推薦文を書くのだ。案の定、僕の本に興味を持った客がパラパラとページをめくっているその背中を、店主の椅子から見つめる僕。「それを描いたのは僕です」と言いたい気持ちをグッと堪える自分に美学、エクスタシーを感じる年の功。

…と、つまりは大してマジメに考えていたわけではない、ということだ。
本屋は「できたらいいな」とふんわり考えているに過ぎなかった。

本屋についてマジメに考えてこなかったのには、理由がある。
「本屋を開く」という理想の "現実的" な側面を見たくなかったからだ。

店舗の家賃や本の仕入れ、収益性や在庫管理など……ひとたび本腰を入れて考えてしまえば、あっという間に壁にぶつかってしまう。開業がどれほど大変で非現実であるか、簡単に気付いてしまう。
願わくば、理想は理想のままで置いておきたかった。それも老後まで楽しみにしていられるだけの理想のままで。
だからこそ僕は、この計画から適度な距離を保つようにしていた。遠くからの「できたらいいな」くらいが丁度よいのだと。

こうして「本屋を営む計画」は、僕の自己防衛本能によって大切に頭の片隅へと仕舞われていた。


移動本屋との出会い

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「出会い」と言うと、どうしても物理的な出会いをイメージしてしまう。
街を歩いていたら、たまたま目にした移動本屋の車に心奪われ、吸い寄せられるように車内へ…。その方が、いくらかは運命的な匂いが香ったのかもしれない。しかし僕が実際に出会ったのは、インスタグラムの写真の中であった。

当時、引っ越したばかりの僕は「POPEYEとBRUTUSが似合う部屋」を目指し、それっぽいモデルルームを探すことに躍起になっていた。類似性を元に写真を提案してくるインスタグラムの粋な計らいによって、僕の検索画面は身の丈に合わない「オシャレなもの」で埋めつくされていった。
しかし偶然、その「オシャレなもの」の中の1つに、移動本屋が混ざっていたのだ。
僕は明らかに異彩を放つ、その移動本屋の写真をタップした。2021年春のことである。

キュートなフォルムをした水色のトラックの写真。車の中は、本棚でぎっしり埋めつくされている。お客さんがそこから一冊を手に取って立ち読みをしている風景が、なんとも絵になる。写りこんだ看板には『移動式本屋』の文字が。

移動本屋…!

そうか、移動しながら本を売るのか。いいなそれ!?!
(※出会ったのは三田修平さんの移動本屋「ブックトラック」の写真)

僕はそこから、移動本屋の写真ばかりをあさるようになった。インスタグラム側も急に本屋の画像ばかりを求めてくる僕に困惑したことだろう。POPEYEはどうした?BRUTUSはどうした?…否、それも一応本か。モデルルームは完成したのですか。と、まあこんな具合で、あっという間に僕のインスタグラムは「移動本屋」の写真で埋め尽くされた。


ライフワークにできること

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移動本屋について調べていくうちに、僕の中には一つの疑念が沸き起こった。

「あれ…?今からでも出来てしまうぞ…!?」

本屋を営むことは現実的には厳しいと踏んでいたその見立てが、移動本屋として考えた時には解決しそうなことばかりだった。毎月のテナント家賃も、車なら購入してしまえば維持費のみ。必要なスタッフも、車なら僕一人でなんとかなる。本の仕入れも、場所が狭いからこそ仕入れ可能な冊数に収まる。初期費用が安い、固定費が安い、出店ハードルが低い…。

僕は頭の片隅に仕舞い込んだはずの「本屋を営む計画」を、あっけなく俎上に戻した。これなら僕にも出来るかもしれない。そう思うと、体温が上がってゆく感覚があった。きっとこれが僕のライフワークになるのだ。なるのか?わからんけど!

あらゆる情報をさらってゆく中で、僕は「移動本屋ワークショップ」なるものを見つけた。どうやら、移動本屋を開業したい人向けに「開業のHOW TO」を教えてくれるという趣旨らしい。しかも、今回が初の開催だという。

いやいや、どんなタイミングやねん!全てが順風満帆すぎるやろ!鐘がリンドン鳴ってもうてるやないかい!これを運命と呼ばずして、なんと呼ぶねん!俺の俺による俺のための移動本屋ワークショップなんかこれは!?

生まれも育ちも関東の僕から、ここまで関西弁を引き出すとは…。運命とは、時にすごいところから迎えにくる。来るべきタイミングで、いつでも飛び込めるようにしておくことは大切なのだ。

興奮そのままに、僕はワークショップのページへと飛んだ。そこで分かったことは、1ヶ月前に募集を締め切っていたことだった。


運命の鐘が鳴ったはずだったのに

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断っておくが、僕はそこまで破天荒になれるタイプではない。宿題は計画的に終わらせる方だし、翌日の時間割を鞄に詰めてから就寝するタイプの人間だ。〆切を破るだなんてもってのほかである。

ただ、今回の場合は少し話が変わってくる。
僕は〆切を破ったわけではない。
すでに破られていたのだ。

それも1日や2日どころの騒ぎではない。1ヶ月も過ぎていた。
1ヶ月とは絶望的な期間である。
豆苗が4回は収穫できてしまう。

しかし、ここで大人しく引き下がっては運命の名が廃る。鐘がリンドン鳴っただの、俺のためのワークショップだの、騒いでしまった自分を今更なかったことには出来ない。きっと運命とは迎えにくるものではない、掴み取るものなのだ。

よく見れば募集が締め切られていただけでなく、5回あるオンライン講義のうち既にもう1回は終了していたが、そんなことはもう関係ない。

僕は意を決して、主催であるSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)にメールを入れた。
どうしても運命だと思いたかった。

《前日譚③へ続く…👇》


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