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『カミノフデ』観てきたよ
特撮造形のレジェンドと呼ばれる、村瀬継蔵氏が80代半ばにして最初で最後の監督を務めた『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』が7月26日より公開中、私もこの週末に観てきた。
レジェンドクリエイターからの贈り物
村瀬継蔵氏と言えば、1950〜60年代の怪獣映画全盛期に東宝の『大怪獣バラン』『モスラ』『キングコング対ゴジラ』などに携わり、大映『大怪獣ガメラ』の着ぐるみを制作するなど、空想を立体化することで、こんにちに続く怪獣・特撮IPの礎を築いた人物。特撮ファンの間では大きな尊敬を集めているが、必ずしも世間への露出が多いわけでもない。偉大な作品群を確かな技術で支えた縁の下の力持ちと言える存在だ。
『カミノフデ』は、初の監督という立場で、自身が過去に構想したプロットをもとに映像化したファンタジー作品だ。
本作の企画は2020年にクラウドファンディングで製作費を募るところから始まった。特撮ファンの間で広く話題となり目標金額を達成。自主製作映画の枠を超え、特撮シーンのクオリティを上げるためのさらなる支援も集まり、コロナ禍も乗り越えて公開にこぎつけた。
そう聞くと、こんなふうに連想してしまいがちだ。――裏方に徹してきた人望ある老クリエイターの夢を実現するために、周囲のスタッフやファンが暖かい支援をしてかたちになった一作、と。
それもひとつの側面ではあるだろう。が、そこだけ見ていると本作の立ち位置を見失う。
まず前提として、村瀬氏らが長年携わってきたアナログの特撮現場は、いまやVFXに取って代わられつつあり、風前の灯火という背景がある。
我が国のクリエイターが培ってきたミニチュア特撮の文化を絶やさないようにする取り組みは、庵野秀明氏が設立したアニメ特撮アーカイブ機構のような大規模なものから、市井のファンによるワークショップのようなものまで多くの試みがある。
しかし、成功が義務付けられた商業作品では活躍の場が非常に限られてしまう現実がある。
そんななかにあって本作は、村瀬氏が自身のキャリアを通じて得た立場をもって、志を同じくする次世代のクリエイターにミニチュア特撮に携わる機会を贈った作品ととらえたい。
新行:ヤマタノオロチの操演には「すかがわ特撮塾」の一期生の皆さんが携われたんですよね。
佐藤:そうですね。「特撮に性別は関係ない」というのを僕は意識していて、例えば女性のスーツアクターであっても男性的なキャラクターを演じることができます。その他、オロチの操作に関しても、子供たちでも一流の操演ができるんじゃないかと思いました。特撮がもっている可能性を作り方でも示したかったというのがあります。
新行:特撮塾の皆さんの操演はいかがでしたか。
佐藤:子供たちはその場ですぐに飲み込んで、ものすごく良い動きをしてくれました。映画本編を観ていただければ分かると思うのですが、すごく自然な動きをしてくれているんですよ。それはやっぱり元々好きだっていうのもあるでしょうし、子供たちならではの柔軟性というか……そんなことを感じました。
本作のあらすじはこうだ。
特殊美術造形家・時宮健三(演:佐野史郎)がこの世を去り、ファンのために作品を展示したお別れ会が催される。孫の朱莉(演:鈴木梨央)は健三の仕事によい思い出がなく、どこか冷めた心境で会場に赴くと、特撮オタクの同級生・卓也(演:楢原嵩琉)と出会う。ふたりの前に健三の知り合いだという謎の男・穂積(演:斎藤 工)が現われ、「世界の破滅を防いでください」を告げられる。その瞬間、ふたりは光に包まれ、気が付くとそこは見知らぬ島。これは健三が生前構想していた映画『神の筆』の世界なのか? ふたりは力を合わせてこの世界の謎を解き、現実に帰ることができるのか?
そんなジュブナイル作品である。最も大きな見どころは、やはり世界を滅ぼさんとするヤマタノオロチの造形と操演であろう。
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脚本は信頼できるオタク・中沢健氏
さて、私はこれまでインディーズ系の映画作品を観に行くのにあまり積極的ではなかった。
その私が本作を観にTOHOシネマズ日比谷に足を延ばしたのは、 ミニチュア特撮の灯を絶やさぬよう踏ん張っているクリエイターを応援したいから…だけではなかった。
ジャンルのオタク特有の忖度とは関係なしに本作に興味をひかれたのは、脚本を中沢健氏が担当していたのが最も大きな理由だった。
UMA研究家・作家としてTV番組などでもお馴染みの中沢氏は、自身のオールタイムベスト映画1位に『ゴジラvsビオランテ』を挙げ、2位に『ガメラ2レギオン襲来』を挙げていることから信頼できる人物だ。
私のオールタイムベスト・ワンツーも全く同じ、嗜好が完全に一致していると思われ、そんな中沢氏が作る令和のアナログ特撮ジュブナイルとはどんなストーリーになるのか。そういう好奇心を胸にスクリーン3に吸い込まれたというわけだ。
ところで、本作が想定している観客のコア層は、村瀬継蔵氏の名前を知っている特撮ファンということになろう。実際、私もそうだし、同じ回で観ていたお客さんも特撮・怪獣ジャンルのTシャツを着ている人が多かった。
で、そういった作品はともすれば身内のオタク向けの内向きな作風になってしまいがちなところがあるが、本作は極力誰もが楽しめるエンターテイメントたろうという姿勢が伝わってきた。そこがまず好感度が高い。
たしかにオタク接待的な小ネタも随所にちりばめられているが、閉じた感じはしない。
それは朱莉役・鈴木梨央さん(ポカリスウェットのCMでお馴染み)と、卓也役の楢原嵩琉さんのフレッシュな魅力によるところが大きいように思う。
いきなり異世界で朱莉とふたりっきりになってしまった卓也が、接し方に試行錯誤しつつも心の距離を縮めていく過程も現代的な感性が反映されていて好感がもてる。
一方で、想定する客層(怪獣のオタク)のニーズに、そんな甘酸っぱいティーンズのジュブナイルで訴求できるのかという課題もあったはず。なのだが、卓也を観に来た客層(怪獣のオタク)の心情を完全に代弁してくれるオタク君キャラとしたことで、その難題を乗り越えている。
かつて、キッズの視聴を想定した特撮コンテンツには、キッズに親しんでもらうための子役が配されることが多かった。他方、過去にキッズだった怪獣オタクの大人を楽しませるには、こういう手もあるのか!と感心した次第。もちろんオタクでない観客にとっても、大人なら保護者目線で応援でき、子供は一緒にハラハラできる冒険劇になっている。
特撮オタク的にはヤマタノオロチの造形と操演だけでも充分見応えがあるだが、それに頼らずその魅力を最大限引き立て、界隈の外のお客さんにも楽しんでもらおうという、信頼できるオタク・中沢氏の華麗な手腕である。
インディーズの映画なりの、演出や編集に荒削りな部分があるのは否めないが、それをことさらあげつらうのも野暮というもの。
本作特撮の造形物には親しみやすさもあり、もしクリエイターを志すキッズが見たなら大きな刺激をもらえるはず。親子での鑑賞もおすすめしたい。
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この世ならざるものを演じる斎藤工のやばさも改めて確認できるのでいいですよ。