見出し画像

02.岐阜県飛騨高山(3/13)

【はじめに・設定】
このお話は、私山本あっしー(山本アツシ)が、もし出身地とは違う町に生まれ育ったら
どんな生活をしていただろうか、と妄想したお話です。
全て妄想ですので、出てくる地名、施設名、人名など全て架空のものです。
書く動機については「自己紹介|初めてのnote」を参照ください。



バンドのメンバー募集を経て
"ゲン"という謎の男と顔合わせをした次の土曜日。
初めてバンドで音合わせをする日がやってきた。


うちのバンドの練習場所は、街の中心から小さい峠を越えた先の公民館でやっているのだけど、ゲンさんはゼイゼイ言いながら自転車に乗ってやってきた。僕らは自転車で峠の一つや二つ越えるぐらいなんでもないけど、都会の人にはキツいのかな?
ゲン「いやぁいい運動になったよ」
そういえば車を持ってないのか。この辺で車を持ってない大人なんていないのに。どこに行くにも車が必要なこの町では、冬は特に生活が厳しいぞ。
ゲン「そうだねぇ、なんとか安い中古車でも探すよ」


そんなことより、問題は音楽の方だ。
トオルが置いていったドラムに
ゲン「うん、十分十分」
と言いながらなにやら調整している。
その間に僕らが楽器を用意しているのを見ては
ゲン「お、レスポールか。いいねぇ。お、そちらはレフティか!ビートルズみたいでカッコいいねぇ!」
といちいち言ってくる。
惑わされてはいけない、問題は"音"なんだ。
アツシ「じゃぁゲンさん、渡したテープの中からやっていくよ」
ゲン「ホイ、オッケー」
先ず一曲目。僕が課題曲のリフを弾き始める。
サイドギターやベースと共にドラムが入ってくると、僕はすごい衝撃を受けた。

ドラムの音がすごい重い!
こんな重いバスドラムもスネアも感じたことがなかった。
見るとゲンさんはベースの指を常に見て叩いている。ベースとタイミングを合わせているのか!

一曲弾き終えたところで早速アキが叫んだ。
アキ「なにこれ、ちょーカッコいい!ドラム入ってちょーカッコよくなったやん!」
アツシ「ホンマ…同じドラムなのに全然違うな…ゲンさん、スゴイっすね!」
ゲン「いやぁ、ちゃんとできてたかな?まだうろ覚えのところがあって迷惑かけちゃったねぇ」
アツシ「いやいや全然。ゲンさんのドラム、スゴイ重たい腹に響く音やった!ノリも安定してるからスゴイやりやすかった!」
ゲン「あぁ、ベースと合わせてるから低音が強調されるのかなぁ。やっぱドラムとベースのリズム隊がぴったりだとカッコいいもんね」
僕はもう、ゲンさんがドラムで大丈夫だ、と心のなかで決定していた。
大丈夫どころか…いままでより全然良くなってないか!?
これなら来月のライブも、夏のコンテストも、ひょっとしたら、ひょっとするかも知れんぞ!?、と内心ウキウキしていた。

※※※

ゲン「ところでこのバンドの、さしあたっての目標とか、ライブとか、何かあるのかなぁ?」
大体の課題曲をほぼ問題なくさらうことができて、次の練習は来週と決めて解散する前にゲンさんが聞いてきた。
アツシ「そうそう!ゲンさん、来月には先輩のバンドの企画ライブでの前座があって、7月には全国バンドコンテストの地区大会があるんだよ。」
ゲン「ふぅん、前座かぁ。先輩のバンドじゃぁしょうがないか。全国バンドコンテストってのは、どんなんだい?」
アツシ「大手楽器メーカーが主催しているコンテストの飛騨地区予選で、勝てば中部地区予選、それも勝てば全国大会に出れるやつなんだ!」
ゲン「ふぅん…それじゃあ今のレパートリーじゃぁ弱いと思うなぁ」
アツシ「えっ!?」
ゲン「やっぱりコピーじゃぁ所詮人の真似だもんなぁ。どこまでもオリジナルには叶わないし、自分たちの良いとこが生かされないと思うなぁ」
アツシ「(うまくいってると思ったのに、何を言ってるんだこの人は…)えっと…じゃぁどうすれば…?」
ゲン「オリジナルだよ。バンドのオリジナル曲を作ろう。そうさ、バンドはオリジナル曲をやらなければ勝てないし、勝っても意味ないよ」
妙に力が入った物言いでゲンさんはビックリする提案をしてきた。
僕らは好きなバンドのコピーをやって楽しんでいた、ただの高校生バンドだ。なんだったらなんかカッコいい、ちょっと目立ちたい、とかの理由でやってるから、曲は何でも良かったかもしれない。
それが、コンテストに勝つためにはオリジナル曲でなきゃなんて、思いもしなかった。
オリジナル曲なんて、僕らに作れるのか?
ゲン「みんなでオリジナル曲を考えてみようよ」
それを聞いてみんな黙り込んでしまった。
アツシ「オリジナルなんて…なぁ?」
マモル「どうやって作ったらいいか、さっぱりわからないや…」
ヤス「ウーン…」
しばらくの沈黙を見てゲンさんが言った。
ゲン「んー、わかった。僕が曲作ってくるから、それに歌詞つけてくれよ。歌詞考えるのは僕苦手だから」
アキ「わかった!ワタシ歌詞考えてくる!」
アツシ「エェ!?アキ急にどうした!?」
ミキ「ゲンさんの言う通りだよ。オリジナルじゃなきゃ意味ないよ!ワタシは誰かのコピーじゃなくて、唯一無二のワタシになりたいんだー!」
アツシ「わかった、わかった!…じゃあゲンさんもアキも、お願いします…」

※※※

一週間後週の練習にて。

ゲンさんは10分テープをメンバーひとりひとりに配った。言った通り、本当にオリジナル曲を作ってきたのだ。
ゲン「とりあえず2曲作ったよ。先輩の前座ライブは今までのレパートリーをやるとして、コンテストまでにコイツらを演奏できるといいけどなぁ」
公民館のカセットプレイヤーでテープを聴いてみたら、ビックリだった!

え?これゲンさん一人で録ったの??

だってギターもベースもドラムも全部入ってる。歌だけが歌詞のないメロディだけの、ほとんど完璧な状態だった。
アツシ・マモル・ヤス・アキ「す、すっげ~!」
ゲン「頭のなかで曲が出来上がっていくと、どうしてもギターもベースもボーカルも入れて再現したくなるんだ。ドラムはリズムパッドを叩いてるから機械音だけどね。小さなマルチトラック・レコーダーでリズムギター、ドラム、ベース、ギター、ボーカルの順に入れていくんだよ」
各メンバーに渡されたテープには、全楽器が入った完成版と、裏面にはその人が担当する楽器が聴き取りやすいように抜き出したバージョンもそれぞれ録音されていた。
アツシ「えー…こんなの一個一個丁寧に作ってくるなんて、引くぐらいスゴイやん…」
アキ「じゃぁワタシはゲンさんの鼻唄にあわせて歌詞かいてくればいいんやね」
ゲン「お願いしますねぇ。歌うのはアキちゃんだから僕らと共有する必要ないし、歌いやすいようにメロディ変えてもいいからね」
その日は直近のライブ用に今までのレパートリーを詰めて練習して、翌週からはアキが歌詞を書き上げてきたので、併せて新曲も練習しはじめていった。

新曲では、ゲンさんのドラムはいままで以上に生き生きしている感じだった。やはり自分で作った曲だからだろうか。
ギターやベースも演奏が難しくはない。むしろ運指は簡単なのだが、だからこそよりバンドとしてのまとまりやノリが合っていないとカッコ悪くなってしまうのだ。
ゲンさん曰く、
ゲン「演奏が難しくてみんな指見て弾いてるんじゃ聴いてる方も楽しくないよ。簡単でもノリや勢いでカッコ良くなるよ。だってロックンロールなんだからぁ」
だそうだ。
僕たちがやっているのはロックンロールなのかな?

翌月、先輩バンド企画ライブでは、前座演奏した僕ら今までのレパートリーを無難にこなし、何事もなく問題なく終わった。
けど、先輩から
先輩「なんかお前ら上手くなったなぁ!」
と褒められた。
やっぱりドラムの効果なのだろうか。
当のゲンさんは先輩達には会釈するぐらいで、
ゲン「バンドの顔はアツシ君たちだから」
と奥で煙草を吸っていた。

※※※

ゲン「先輩のバンド、別に悪くないんだけど、格好ばっかりで、気持ちと言うか、パッションが足らない。なぁんか、ロックンロールじゃないんだよなぁ」
後日の練習の時に、先日の対バンライブの感想をゲンさんに聞いてみたら、そんなことを言ってきた。
マモル「ふぅん…先輩のバンド上手いと思うけどなぁ」
ゲン「うん、上手とは思うよ。バンド全員の息もピッタリだし、ステージングも計算されていて華やかだ。でも、ロックンロールじゃぁないんだよなぁ。ステージのための音楽であって、生きざまになってないよなぁ」
僕にはゲンさんの言ってることがいまいち理解できてないんだけど、気持ちの部分のことを言ってたのだろうか。

アキ「わかる!そやねん、ああいうバンドってカッコだけやねん。音楽に魂がないねん!」
ゲン「そうそう、音楽に魂がないって表現がピッタリかもね。僕らが目指すバンドってのは、見せかけよりも音楽に魂があるバンドじゃないかなぁ」
アキ「そや!うちらはそういうバンド目指そう!なぁアツシ!?」
アツシ「お、おぅ…!」
アキがものすごい賛同している。

僕は、どういうバンドを目指したいのか、自分でもよく解ってない…
けど、ただ先輩のバンドみたいのはダサくて嫌だな。ということは、僕が目指しているのは、ゲンさんが言うような、魂がこもったロックンロールなバンドなのか…な?


いま思うとこの頃の僕は、ゲンさんのバンド哲学に影響されていたんじゃないかな。
それはたぶん、自分のなかでやりたいバンドのイメージができていなかったからだと思う。



ありがとうございました
次回も一週間後に更新する予定です。

いいなと思ったら応援しよう!