中国式のお葬式
その日は朝からマンションの周囲が騒がしく、何かが行われているようでした。階下には多くの人が集まっていて、まるでミニ・コンサートが開かれているかのようです。しかし、プロの演奏者というより、住民が集まっている様子に見えました。年配の方々が歌ったり、楽器を演奏したりしていて、とても賑やかでした。
午前中に外出し、夜になって帰ってきたときも、その騒ぎはまだ続いていました。しかも、午前中よりさらに人が増えていて、敷地内の全住民が集まっているのではないかと思うほどでした。
窓から下を見下ろしていると、演歌のような曲や、踊り出したくなるようなリズミカルな民謡調の音楽が流れてきました。実際に踊っている人たちもいて、とても楽しそうに見えました。
どうしてもその音楽が気になった私は、南京人の友人、周昕に電話をかけました。電話越しにその音楽を聴かせると、周昕は笑いながら「那是葬礼的音乐啊!」(それ、お葬式の曲だよ!)と言ったのです。使われている楽器は唢呐や笛子といったもので、これは「哭灵曲」とも呼ばれるのだそうです。
私は絶句しました。これが本当にお葬式?まるでお祭りのようでした。確かに、よく見るとみんなの表情は少し硬いですが…でも普段着で賑やかに過ごしています。
中国では、日本以上に「死」が穢れとされ、それを祓うために葬儀は派手で盛大に行われるのだそうです。これは特に南京や南方の伝統的な習慣であり、北方ではもっと厳かなスタイルが一般的なのだそうです。
外出せずにずっと見ていたら、「哭丧女(なきおんな)」と呼ばれる人々が大声で泣く様子も見られたかもしれません。
彼らは遺族の代わりに悲しみを表現し、葬儀の場をさらに盛り上げる役割を果たします。私の祖母は戦前、2か月ほど満州に住んだ経験があり、「泣き女」を見たのだと、子供の頃に話してくれました。他人に悲しみを委託することで遺族の心を慰める文化です。
日本でも葬儀の際、参列者がしっかり泣いてくれることで遺族が少しでも慰められることがあります。私自身、祖父の葬儀でしっかり泣いてくれた方々のおかげで、私も思い切り泣けたことを思い出しました。ただ、「うわーん」と大声で泣き叫ぶのではなく、静かに感情を抑えて見送ったのですが。
アップテンポにさえ感じる哭灵曲を聴きながら、中国の感情の表現方法や振り幅は多彩であるなと思いました。
補足
中国の葬儀は地域によって異なりますが、南京を含む南方の地域では、葬儀がとても賑やかで、音楽や舞踊、時には花火まで用いられることがあります。これは、故人があの世で安らかに暮らせるようにという願いが込められており、賑やかさが故人を送り出す重要な要素とされているからです。
また、「哭丧女(なきおんな)」は遺族の悲しみを代弁する重要な役割を持ち、彼女たちが大声で泣くことで、故人への敬意や愛情を示すと同時に、遺族の心の重荷を軽減する効果があります。
中国の葬式文化は、生きるための知恵であり、悲しみに対するたくましい対抗策なのだな感じました。
2003年12月10日、中国江蘇省南京市