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見えない力と友人の命

日本人の留学仲間であるシンジが、急に腸閉塞で倒れました。

普段から無茶をしがちな彼は、夜更かしが続いていたため、みんな彼の胃腸の調子が悪いだろうと思い、誰も真剣に取り合いませんでした。前夜には「飲めば治るかも」とビール瓶を一本空ける彼を、誰も止めようとはしなかったのです。

しかし、ついに彼は痛みで動けなくなってしまいました。

連絡を受けて、急いで人民病院に駆けつけると、ソンフンやジニョンをはじめ、中医薬大学の面々が見守る中、シンジは担架に乗せられてうずくまっていました。彼はまるでひよこのように薄目を開け、震えていました。ほとんど声も出せない状態でした。

その場にいた日本人は私一人だったため、シンジの言葉にならない言葉を聞き取り、周囲に伝えるのは私の役目となりました。

シンジの状態はどう見ても急患です。
しかし、30分経っても1時間経っても、看護師たちはただ「順番を待ってください」と言うばかりで、彼は診察もされず、廊下に放置されたままでした。

このままでは、シンジが命を落としてしまうかもしれない。
私たちは何度も必死で友人の窮状を訴えましたが、病院の職員たちは「あのね、みんな順番を待ってるのよ」と鼻で笑うだけでした。

(このときはまだ診察を受けられない状態だったので、腸閉塞だとは分かっていませんでしたが、腸閉塞は放置すれば命に関わる非常に危険な状態です。今思うと、ぞっとします。)

私たちではどうすることもできない…。
藁をもすがる思いで、ソンフンとジニョンが大学の留学生課に、私は中医薬大学のH教授に連絡を取りました。

驚くことに、大学関係者が動いたことで、事態は一変しました。すぐに診察が始まり、シンジは大勢の患者が並べられた大部屋へと運ばれました。その後1時間もしないうちに、今度は大部屋から新設の清潔な個室へ移され、手厚いケアを受けることができました。

私たちを半笑いで見ていた看護師や医師たちは態度を一変させ、次々とやって来ては「日本のお友達、何か変わったことはありませんか?」と笑顔で尋ねるようになりました。やりすぎなほどの慇懃さで、バイタルチェックも頻繁に行われました。

私たちはその様子をただ茫然と見守るしかできませんでした。
それまで私たちは、ルールや規則を守った上で、きちんと要望や権利を主張しさえすれば、大体のことはうまくいくだろう、何でも自分たちで解決できるだろうと思っていました。中国語を話すことができれば。思い上がりも良いところでした。

中国社会では、権力やコネクションが重要な役割を果たすのだということをまざまざと見せつけられました。

友人が緊急な状態であるにもかかわらず、当初は病院側から適切な対応を得られなかった理由は、私たちがこの「コネクション」や「権力」を持たない普通の外国人だったからなのでしょう。
ここ中国では頼むべき人に頼み、しかるべき人に話をしてもらうことの重要性を痛感しました。私たち外国人には、限られた選択肢しかないのです。

奇しくも、シンジの入院中に西安で宿泊しお世話になった西北大学で、日本人をターゲットにした暴動事件が発生し、Pちゃんをはじめとする友人たちは帰国を余儀なくされました。

中国に来てまだ2か月。私はこの土地をもう知っているつもりでいました。
でも、少し中国語ができるだけではこの地で生きていくには全く足りないのだということを痛感しました。

中国社会では、公式なルート以外に、権力や関係性が物事を動かす大きな力を持っています。その力を持たない私たちは、国や大学といった公式なチャンネルをより重視すべきなのだと痛感しました。

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