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今月の読書日記(2024.10)
生き物の食欲について考えてみた?
《食べることで病気になる現代人》
「食べる」というのは、生き物にとっては本能です。生きていくためには、必ず「食べる」ということをしなければなりません。
しかし、今を生きる私たちは、その食べるものが豊富にあり、食べることに困るという状況は、ほとんど考えらえません。
ある意味幸せな環境の中にいると言えるのかもしれませんが、その反面で、「食べ過ぎ」や「肥満」、そして「成人病」という食のコントロールが出来ないことで、不健康になる人たちも増えてきています。
タバコやアルコールよりも、現代の食事こそが今の不健康の最大の原因だという話もあります。
本書の初めにも、「だがその間もずっと今もずっと、コロナよりもさらに危険性の高い、古くからのより大きなパンデミックが蔓延を続けている。ー貧弱な食事と肥満、代謝性疾患の連鎖だ」という一文がありました。
健康に気を使っている人の中には、食事に気を付けていて、栄養士や医師などに食べるものの管理をしてもらう人もいるようです。
そもそも、私たちは食欲という生きるための本能的なところを、わざわざ誰かに管理をしてもらわなければ、自然と不健康になる選択をしてしまうようになってしまったのだろうか?
生き物として、これほどの進化をしてきて、なぜ食という根本的なところで問題が起こっているのか不思議なところです。
食欲という本能は、私たち人間に限らず、この世界に生きる多くの生き物たちの共通点です。
じゃあ、わたしたち人間以外の生き物たちも、管理する者なしで、食欲を本能のまま行っていると、人間と同じように不健康になったりしてしまうのだろうか?
そんなことはないはずです。
地球上の生き物のほとんどは、食べるものを誰かに管理してもらうことなく、生きていくのに必要な食事をしているものと思われます。
不思議な話です。
生き物たちは、どうやって食べるものを決めているのか、食べる量はどのようにコントロールしているのか。
今まで不思議とさえ思っていなかった、生き物が食べることを決めるメカニズム。
よくよく考えてみれば、疑問に感じることや不思議に思うことが多いものです。
その食欲の不思議を解明しようと研究を続けてきたのが、この『食欲人』という本の著者たちです。
『Eat like the animals』が本来のこの本のタイトルなのですが、日本語訳のタイトルは、『食欲人』になっています。
正直、このタイトルは、本の内容にそぐわないんじゃないかと思いました。
読んでみるとわかりますが、人よりももっと広い、生き物の世界の『食べる』ということへの知的探求心の本だと思いました。
《食欲の不思議》
『あなたたちはおそらく正しいのだろうが、私のような人間栄養学の分野の研究者にとって、これほど明白に思われることを見落とし、しかも2人の昆虫学者に先を越されたことが、どんなにつらかったかをわかってほしい』
この本の著者たちが書いた論文が、人間栄養学の分野で正しく評価されなかったことがあった時のエピソードが書かれていました。
実は、この本の著者たちは、栄養学が専門の研究者ではありません。昆虫が専門分野の研究者だったのです。
しかし、その昆虫研究の中で行ったバッタの研究によって、多くの生き物に共通する食欲の法則的なものを発見したというのがそもそものはじまりでした。
具体的には、タンパク質レバレッジ仮説とよんでいるもので、生き物たちの食欲は、タンパク質の摂取量が一定になるように食事をしているようだということを発見しました。
最初に調べたバッタはもちろんのこと、コオロギやクモ、ショウジョウバエ、マウス、イヌ、ネコ、ヒヒ、そして大学生(人間)まで、さまざまな生き物に共通して、このタンパク質の摂取傾向がみられることを実験によって確認することができたと言っています。
本の話の流れも、まさに実験室にいるかのような展開で、これがわかったら、次にこういう疑問が湧き、またわかったことを証明するためには、あれを調べる、といった感じの、まるで『食欲』という世界を冒険しているかのような展開で、まるで冒険物語を読むように面白く感じました。
この本を読んで、食欲の理由を知ることができたことで、不思議だと思っていた食欲が、とてもシンプルなものに思えてきました。
食欲については、胃の膨れ具合でおなかが鳴る「グウグウ仮説」や血糖値による「糖定常説」、ほかにも「温度定常説」、「脂肪定常説」、「アミノ酸定常説」などさまざまなものが考えられてきました。
特にこの中でも有名なのは、「グウグウ仮説」と「糖定常説」の2つなのかなと思いますが、筆者たちの研究によると、実際はそうではなかったとのことでした。
《人間が食で健康を害している仕組》
食欲の仕組みがわかってくると、次に知りたいことは、なぜ人間は、他の生き物たちと違って、肥満になったり、代謝をおかしくしたりするなど、健康を害する『食べ方をするのか』ということなのではないでしょうか?
結局、本書から感じたあるべき食欲の姿は、バランスのいい食事をするということでした。
タンパク質はもちろん、炭水化物、食物繊維、脂質、その他微細な栄養素、それらすべてをバランスよく食事するということが大切だということを改めて感じました。
そして、そのバランスのいい食事が自然にできるようになるために、人間を含めた多くの生き物たちが、進化する過程で手に入れた能力が、タンパク質の量を基準にした食欲と、味覚機能だったのではないかという話です。
自然界の生き物たちは、タンパク質の量が一定になるような食事をしていれば、必要な栄養素がほとんど摂取できるようになっているのだそうです。
特に食事の中の炭水化物とタンパク質の比率は重要なようで、その比率がほぼ一定になっている食事は、よく好んで食べていたという実験結果もあるようです。
そしてその食事に、バランスを整えるために役立っているのが、味覚の役割なのではないかと考察しています。
甘味、旨み、塩味、といった味覚は、炭水化物、タンパク質、脂肪、ナトリウム、カルシウムという5つの食欲を満たすためにあるものであり。
このビック5の栄養素を摂取することを目指して食事をすれば、自然とその他の微細な栄養素もバランスよく摂取できるのだろうという仕組みで、進化してきたのではないかと考えているようです。
ところが、人間という生き物は、食品を加工することを覚えてしまった。
しかも現代では、味を強く感じるようにしたり、香りづけをしたり、食感を良くしたり、保存できる期間を長くするために、調味料を利用するだけにとどまらず、科学的な食品添加物をつかってまで、食品を加工するようになってしまった。
それによって、本来必要栄養素を摂取するための機能だった味覚と食品が合わなくなり、食事の栄養バランスも崩れてしまっているのではないかというのが、この本の著者の考察です。
これらの食品によって、とくにタンパク質と炭水化物のバランスは悪くなり、食事の中のタンパク質比率が下がってしまった。
タンパク質が多めの食品を作るより、炭水化物多めの食品を作るほうが、安くて大量に販売しやすいという意図が働いてるのではないかと言っています。
そのため、私たち人間が、他の生き物と同じように一定量のタンパク質をとろうとすることで、過剰に食事をする過食(炭水化物の取りすぎ)の状態になっている可能性を指摘してます。
まさに、肥満や代謝性疾患の原因になっている指摘だと言えます。
《私たちは、今一度、食生活を見直すべき時なのかもしれない。》
今を生きる私たちは、なにげない日常の中でも、十分に美味しいものを、比較的簡単に手に入れることができるようになりました。
しかしその反面では、その美味しいものによって栄養のバランスが乱れるはめになってしまったのかもしれません。
考えてみれば、旨みのある物を食べたいと思った時というのは、本来なら身体がタンパク質を要求している時なのかもしれません。
しかしそんな時に、実際に私たちが口にしているものは、ポテトチップスなどの、炭水化物の食材に調味料を使って、旨みや塩味をプラスした食品を食べている事も多いものです。
これでは、明らかに身体が要求しているものと、違うものを食べていることになります。
そしてその身体の要求(タンパク質)が満たされるまで食べてしまい、食べ過ぎることになる。
また私たちが自然と旬のものがおいしいと感じる理由も、季節によって身体に必要とされる栄養バランスの変化が、そのまま味覚に反映されているということなのかもしれない。
本書を読んだことで、素材そのものの味や味覚の大切さというものを考えさせられました。
私たちは、もっと自然のものを意識し、さらに自分の身体の内なる食欲(空腹感や味覚)に意識を向けることで、本当の食欲を取り戻さなければいけないのかもしれないと感じました。