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ノンフィクション連続小説第⑥話 『妖怪の棲む家』

今日は2階のまだ行っていない廊下、下り坂の廊下を進んでみようと決めていた。旧家に着くとゾンビの爺さんがいた。

「牛乳飲むかい?」

「いらない。」

「コーヒー牛乳飲むかい?」

「飲む。」

震えの止まらない手で冷蔵庫を開けてコーヒー牛乳の瓶を渡してくれた。

この冷蔵庫の中を見るのは嫌いなのだけど。牛乳の瓶だらけだから。みんなコーヒー牛乳しか飲まないくせに、毎朝牛乳とコーヒー牛乳の瓶が2本ずつ玄関の専用箱に届く。牛乳やめればいいのに。もったいないお化けが出るよ。

私はコーヒー牛乳を一気に飲み、2階へと上がって行った。慣れた足取りで廊下を進み、下り坂の廊下を歩いて分岐点まで来た。今日はこっち。右側の下り坂をずんずんと進んで行った。

廊下の両サイドにはやはり箱が積み上げられていて、坂で重心が取れずにひしゃげていてつらそうだ。

下り坂は奇妙にカーブを描いて続いた。ぐるぐると回っていく。そして真っ直ぐ急な下り坂になっている。ここまで来ると日が入らず暗い。真っ暗の中、突き当たりに小さな光がある。何だろう。

私は滑り台を滑るようにその下り坂を滑り、突き当たりの小さな光を見た。

覗き穴だ。向こうの部屋は明るく、人の気配がある。

すぐ近くに人の肩が見える。話し声が聞こえる。

眼をこらしてよく見てみる。

あ!!!

見覚えのある景色。1階の正面とは別の扉から入れる"事務所"だ。

そこの応接セットが見えているのだ...!

父だ!父と、誰かお客さんが向かい合って煙草を吸いながら話をしているのだった。

コンコン。

小さな音でノック音を鳴らしてみた。気づかない。

コンコンコンコン。

何度か続けたが会話が止む様子がなかったので私は諦めて、元来た道から戻ることにした。

事務所に繋がっていたとは驚いた。盗み聞きのためにあるような、忍者の家みたいな造りだ。おかしな家。

しばらく台所で母の後ろで座ってお菓子を食べ落ち着いた後、私は1階の"事務所"へ向かった。

父が一人でいた。

私はまず覗き穴を探した。あった。応接セットのテーブルから割りと近くにあった。今まで知らなかったし、来客もきっと気づかないだろう。

「さっき何か気づかなかった?」

聞いてみるが何もないとのこと。何度か聞いたがまったく相手にされない。今日も心ここにあらずだ。

"事務所"にいる父は嫌いだ。スーツを着て髪をつやつやにオールバックにしてネクタイをして、威圧感がある。応接セットに座り足をテーブルの上で組み、怖い顔で無言で煙草を吸い続ける。"事務所"にいる父はいつもの父ではない。気持ちが張り詰めていて、とても不機嫌で、子ども嫌いだ。話しかけても目すら動かない。

テーブルに足をあげたら行儀が悪いよと半ば冗談まじりに注意しても無視される。私は片足を立ててご飯を食べたら韓国人みたいなことをするなと激怒するくせに不公平だ。

「大嫌いよ。」心の中で呟く。

ここにいると人は不機嫌になるのだろうか。祖父母も父もみんな妖怪に取り憑かれているようだ。

私は、穴から覗いて、父とお客さんの会話を聞いた話をするのをやめてその場を後にした。

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第6話はここまで。次回も家の探検がまだ少し続きます。ご期待ください。


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