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デスマッチ・ファミリー ~第17話

再会

  寒さで意識が消えそうだ。しかしこの場で動くのを止めたら眠ってしまう。それは睡眠ではなく意識を失うということだ。つまり死ぬということ。早苗は必死に身体を動かし続けた。
 暗闇で歩き回ると、人間は同じ所をぐるぐる回ってしまうらしい。それに誰にも限界というものがある。助かる希望がない中歩き回るというのは体力よりも精神が先に参ってしまう。絶望に支配されると楽になることを考える。いまの早苗にとってそれは死だ。死ぬと言うことが早苗にとって甘美な言葉に思える。
 良太、菜摘、ごめん。お姉ちゃん、先に死んじゃうわ・・・
 ゆっくりと目を閉じかけた早苗に光が飛び込んできた。左手の方が明るくなった。

 別荘に明かりが戻ったのだ。
 別荘はあっちだ。早苗は気力を振り絞って明かりに向かって歩き出した。
 しばらく行くと、別荘が見えた。
 殺人鬼が支配する惨劇の館だ。しかし今の早苗に戻る所はそこしかない。
 あかりがともったということは、決着がついたということなのだろうか。だとしたら勝ったのはどちらだ? もし父親たちであったなら、良太との約束を果たせなかった自分は命に代えても仇を討たねばならない。結果を見届けるためにまだ死ぬわけにはいかない。早苗は気力を振り絞って歩き出した。

 別荘の中は静まりかえっている。裏口にまわる。すると入り口付近に大きな血だまりが出来ていた。その血だまりから赤い筋が建物の裏側に続いている。この血は誰のものなのか。早苗が辿っていくと、その先に倒れている人間の姿を見つけた。早苗が抱き起こすと、それは良太だった。
 息はしている。早苗が頬を二三度叩くと、うっすらと良太が目を開けた。
「姉ちゃん・・・ ごめん」
 絞り出すような声を出すと、良太は再び気を失った。勝負は終わっていなかった。良太はあの二人と戦って負傷したのだ。良太の脇を見ると包丁と果物ナイフが落ちていた。しかも右足から血が流れ出している。
 早苗は靴を脱いで、靴下も脱いだ。その靴下で良太の膝下をきつく結んだ。

 そして、肩に担ぎ上げると健太の部屋の下まで歩く。自分が降りたシーツが残っているなら部屋に戻れる。
 しかしその希望は絶望に変わった。
 ロープ代わりのシーツは雪の上に落とされていた。
 上に戻る方法がなくなった。残された方法は、裏口から入るか、あの玄関から入るかだ。
 いや、窓をたたき割るという方法もあるが、音がすればあいつらに気づかれる。
 武器が手に入ったとはいえ、手負いの良太を背負い満身創痍で凍傷寸前の身で戦えるのか。
 再び絶望という名の悪魔が早苗に忍び寄ってきていた。

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