見出し画像

デスマッチ・ファミリー ~第14話

画鋲

 扉を開いた良太は菜摘の部屋の前でささやく祖父の声が聞こえた。
 暗闇の中、懐中電灯の明かりが菜摘の部屋の扉を照らしていた。
「そうか、もう知ってるんだな」
 祖父がそう言うと、いきなり包丁の切っ先をドアの隙間に突っ込んだ。部屋の中から菜摘の絶叫が聞こえた。
「やめろ!」
 叫びながら良太が廊下に躍り出る。
あわてた様子もなく、祖父がゆっくりと良太を見つめる。
「お前はあとだ」
 祖父はそう言ったかと思うと、キラキラと光る何かを床にばらまいた。良太の足下にもそれが広がった。足の裏に刺さるものがあった。画鋲だ。
 祖父は廊下に画鋲をばらまいたのだ。歩き出せば素足の良太の足裏に突き刺さる。身動きが取れなくなった。 しかしすり足で進めば踏まずに済む。
「菜摘に手を出すなっ」
 良太は足をすりながら少しずつ祖父に近づく。祖父は扉に突き立てていた包丁を抜くと、良太に向けて突き出した。片手鍋で防御をとる良太。あの包丁の第一撃さえ交わせば何とかなる。
 しかし祖父は良太にずんずん近づいてきた。祖父は靴を履いており、画鋲の上を歩いてくる。包丁の切っ先だけに気をとらわれていた良太は祖父の足までは見ていなかった。祖父の右足が大きく上がると良太の腹に背負ったリュックを蹴った。バランスを崩した良太はそのまま尻餅をついた。瞬間、尻に激痛が走った。
 いくつもの画鋲が良太の尻に突き刺さった。
「うわっ!」
 あわてて手をつくとその手にも画鋲が突き刺さる。あわてて立ち上がろうとすると足裏にも画鋲が刺さる。
「まだあるぞ」
 祖父はさらに何十もの画鋲を良太の頭上に放り投げてきた。画鋲のシャワーを浴びる良太。身動きをするたびに身体のどこかに画鋲が刺さる。しかも廊下はフローリングだ。足裏に刺さった画鋲が滑って、背中から廊下に落ちる。
 背中一面に画鋲が刺さる。
 
 ゆっくりと近寄ってくる祖父。
 もはや痛いなどとは言ってられない。片手鍋を闇雲に振り回し、そのままジリジリと後ろに下がる。
やがて、健太の部屋の前に戻ると、扉の中に逃げ込み鍵をする。
「そこでおとなしくしてろ。菜摘の次はお前だ」
 祖父が言い放つ。
 腹と頭以外は全身画鋲まみれだ。真っ暗でよく見えないが、おそらく両手両足、背中にいたるまで何十個もの画鋲が刺さっているに違いない。
 菜摘を救うなんてとんでもない。
「有刺鉄線のあとは画鋲かよ。プロレスラーじゃねえんだ」
 毒づきながら良太は左の手のひらに深々と刺さっている画鋲を抜きはじめた。
「畜生・・・」
 左手が真っ赤に染まった。激痛に全身が震える。
 廊下の奥からドンッという音が響いた。続いて祖父の悪態が聞こえる。
「開けなきゃドアぶっ壊すぞ」
 菜摘の部屋のドアを蹴っているのだ。
 急がなければ。良太は両手両足の画鋲を急いで抜いた。

いいなと思ったら応援しよう!