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大概念不当周延の虚偽 - 三段論法の誤謬

「媒概念不周延の虚偽 - 三段論法の誤謬」の記事で、三段論法の誤謬を解説しました。

今回の記事では別の誤謬を解説します。

以下の定立について考えていきましょう。

蜘蛛が生き物であることを否定する定立:

大前提:生き物は睡眠が必要である。
小前提:
すべての蜘蛛は睡眠が不要である。
結論:
ゆえにすべての蜘蛛は生き物ではない。

大概念:生き物
小概念:蜘蛛
媒概念:睡眠が必要

大前提は真偽不明、小前提の「すべての蜘蛛は睡眠が不要である」は仮に真だとして考えてみてください。


今回の例も大概念が周延されているか、周延されていないのか分かりませんので、周延されているケースと周延されていないケースを考えてみます。


大前提の大概念が周延している場合

大概念が周延されている場合は、すべての生き物は睡眠が必要(生き物ならば睡眠が必要)ということになり、以下のような関係になります。


1. 生き物が周延している


小前提より、蜘蛛は睡眠が必要ないので「睡眠が必要」の外延には置けません。「蜘蛛」を「睡眠が必要」の外に置きます。

この場合、すべての蜘蛛は生き物ではないということになりますので結論は妥当です。

大前提の大概念が周延している場合は結論は妥当となります。


大前提の大概念が周延していない場合

大概念が周延されていないとすると、一部の生き物は睡眠が必要ということになり、以下のような関係になります。


2. 生き物が周延されていない


睡眠が必要なのは一部の生き物なので、「生き物」と「睡眠が必要」は一部が重なっています。


小前提より、蜘蛛は睡眠が必要ないので「睡眠が必要」の外延には置けません。したがって「蜘蛛」を「睡眠が必要」の外に置きます。

「蜘蛛」は生き物の外延に置いてもいいですし、生き物の外に置いてもいいです。スペースの都合上、書きませんでしたが生き物に一部を重ねても構いません。

この場合、蜘蛛は生き物の外延になる可能性がありますので結論は妥当ではありません。

大概念が周延していない場合は結論は妥当にはならないのです。


どういうときに発生する誤謬か

「すべての蜘蛛は生き物ではない」という結論の述語になっている大概念の「生き物」は周延されています。蜘蛛は生き物という概念のどの外延にも当てはまらない、ということなので「生き物」の外延すべてを指しているためです。

そのとき大前提の大概念が周延されていなければ、この誤謬が発生します。これは、「大概念不当周延の虚偽」と呼ばれる誤謬です。

また、結論の主語になっている小概念が周延していますので、小前提の小概念の「蜘蛛」が周延している必要があります。今回の例では周延していますが仮に小前提が「一部の蜘蛛は睡眠が不要」だった場合は「小概念不当周延」の虚偽になります。


定立が妥当かどうかの判断

大前提の大概念が周延されているときは結論は妥当となります。

大前提:すべての生き物は睡眠が必要である。
小前提:
蜘蛛は睡眠が不要である。
結論:
ゆえに蜘蛛は生き物ではない。

妥当というのはあくまで前提が正しければ真というものですので、次は大前提にしている「すべての生き物は睡眠が必要である」が正しいかどうかを考える必要があります。


「すべての生き物は睡眠が必要である」は「生き物ならば睡眠が必要である」に言い換えることができます。

この対偶をとって「睡眠が必要ない生き物はいない」を求めます。

「すべての生き物は睡眠が必要である」が真であれば、「睡眠が必要ない生き物はいない」が真になるはずです。

ということは、睡眠が必要ない生き物を一匹でも見つければ「すべての生き物は睡眠が必要である」が偽ということになり、真理値が偽であるものを大前提とした結論は妥当ではなくなります。



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