周延と不周延
ある概念において、その概念に当てはまる具体的なものを外延と呼びます。
人間という概念に当てはまる具体的なものである太郎さんと花子さんは、人間の外延です。
では、人間の外延は太郎さん、花子さんだけでしょうか?
もちろん、そのようなこともありません。太郎さん、花子さん以外にも人間はたくさんいます。
このように外延が不特定多数あるときには、ある概念を示す言葉が外延の一部を指すのか、外延すべてを指すのか、という点に注意を向ける必要があります。
これは論理において重要な区別です。
そこで、「周延」(しゅうえん)と「不周延」(ふしゅうえん)という言葉が登場します。
ある概念において、外延すべてを指しているとき、その概念は周延されている、といいます。
また、外延の一部を指しているとき、その概念は周延されていない(不周延である)、といいます。
周延していない例
では概念が周延していないときの具体例を見ていきましょう。
「太郎さんは読書家である」という命題において、人間という概念は周延されていません。
人間という概念の外延の一部である「太郎さん」しか指していないためです。
したがって、「太郎さんは読書家である」という命題の解が真でも「すべての人間は読書家である」という結論を導くことはできません。
太郎さんが読書家であることは間違いありませんが、それ以外の人間の外延(太郎さん以外の人々)が読書家であるか分からないためです。
今度は「カラスは黒い」という命題について考えてみましょう。
このように概念の外延の範囲を示す限定詞(例:「あるカラス」「一部のカラス」、「すべてのカラス」)が省略されている場合、一般的に知られているものを示していると解釈してもよいでしょう。
一般的に知られているカラスは、すべてのカラスを示しているわけではありませんので、「カラスは黒い」のカラスは厳密には周延されていないといえます。
周延している例
「カラスは黒い」のカラスが一般的なカラスを指している場合は周延されていないといえますが、「すべてのカラスは黒い」はカラスという概念の外延すべてを指しているため周延されています。
「すべてのカラスは黒い」の解が真であることを証明する場合、過去・現在、より厳密には未来も含め、すべてのカラスが黒いことを調べなくてはなりません。
また、何をもってカラスと定義できるか、カラスという概念の内包を厳密に定義する必要があります。
このように概念を周延させた真偽の分かる命題をつくることは、時に現実的でないこともあります。
ちなみにカラスの例だと、「すべてのカラスは黒い」は「黒くないカラスはいない」という命題に交換でき、白いカラスを見つければ解が偽であることが分かるので比較的簡単です。
アルビノのカラスは白いので「すべてのカラスは黒い」は偽となります。
白いカラスがいることが分かったので、カラスという概念の外延は必ずしも黒いという性質を内包していないことが分かりました。
このような包含関係になるのでしょうか?
いえ、黒いという概念は、カラス以外も外延に含んでいます。
なので、このような包含関係であるといえます。
否定の対象の概念が周延するケース
「すべての蜘蛛は人間ではない」という命題について考えます。
この命題が真だとすると、このとき、人間という概念は周延されています。
イメージがしにくいと思いますので図に起こします。
「すべての蜘蛛は人間ではない」が真であるとき、人間という概念のいかなる外延にも蜘蛛という概念は当てはまりません。
つまり、人間という概念の外延すべてにおいて、蜘蛛という概念は当てはまらないということを示しているのです。
そのため、「すべての蜘蛛は人間ではない」の人間という概念は周延されていると判断されます。
また、「すべての蜘蛛は生き物である」という命題について考えたとき、「蜘蛛」はその外延すべてを指しているので周延されており、「生き物」はその外延の内の蜘蛛だけを指しているので周延されていません。
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