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万歩で病を予防:最新研究から-ジムに通っているのに体重が減らない理由
健康維持のための8,000歩
近年、複数の研究により、不活動が脂肪燃焼や体重減少を著しく困難にする可能性が示されています。これは「運動抵抗性」と呼ばれる現象であり、座りがちな生活を送ることで運動時の脂肪燃焼効率が低下することを意味します。この運動抵抗性のメカニズムと、それを克服するために推奨される1日8,000歩の歩行の重要性について解説します。
運動抵抗性とは
運動抵抗性とは、身体活動量が少ない状態が続くことで、運動を行っても脂肪が効率的に燃焼されない状態を指します。(UTオースティン校のエドワード・コール氏らの研究レビューでは、不活動が脂肪代謝に及ぼす悪影響について詳しく分析されています。)
具体的には、不活動状態では、運動中に脂肪をエネルギーとして適切に利用する能力が低下します。しかし、食後の短時間の散歩や、1時間ごとの軽い運動(例えば腕立て伏せ数回)など、日中の活動量を意識的に増やすことで、食後や運動後の脂肪燃焼を促進することが可能です。
多くの人が「週に数回ジムに通っているのに体重が減らない」という悩みを抱えています。これらの人々は、仕事柄座っている時間が長い傾向にあります。このような状況において、1日約8,000歩の歩行は、不活動による運動抵抗性を改善する有効な手段となります。
不活動の健康への悪影響
世界保健機関(WHO)によると、身体的不活動は世界で4番目に多い死因であり、様々な疾患や早死のリスクを高めます。不活動が健康に及ぼす主な悪影響として、以下の2点が挙げられます。
食後高脂血症: 食後に血中のトリグリセリド値が異常に上昇する状態。心臓、筋肉、肝臓などにダメージを与え、代謝機能の低下につながります。
全身の脂肪酸化の低下: 身体が脂肪をエネルギーとして利用する能力が低下する状態。
活発な人は、運動によって脂肪酸化を高め、食後高脂血症を抑制することができます。しかし、1日の歩数が8,000歩未満の不活動な人では、1時間の運動を行っても脂肪酸化の促進や食後高脂血症の改善効果は期待できません。これが運動抵抗性の重要な特徴です。つまり、不活動による悪影響は、単なる運動不足によるものというよりも、運動の効果を打ち消してしまうほど強力なのです。
コール氏らの研究では、歩数の少ないグループ(約4,000歩)と多いグループ(8,000歩以上)に分け、運動後の脂肪酸化と食後高脂血症の変化を比較する実験が行われました。その結果、歩数の少ないグループでは運動による効果が見られなかったのに対し、歩数の多いグループでは脂肪酸化の促進と食後トリグリセリド値の低下が確認されました。
運動抵抗性の克服と歩行の重要性
これらの研究結果から、ほぼ毎日少なくとも8,000歩歩くことが、運動抵抗性を克服し、健康を維持するために重要であることが分かります。出張などで座っている時間が長い場合でも、こまめな休憩を取り、軽い運動を挟むことで、目標歩数を達成することは可能です。
さらに、歩数の少ないグループ(4,800歩)と非常に多いグループ(16,000歩)を比較した研究では、安静時の脂肪酸化は歩数の多いグループでのみ有意に増加しました。また、高脂肪負荷試験後、歩数の多いグループではトリグリセリド値が大幅に低下しました。これらの結果は、1日の基礎的な活動量が多いほど、運動に対する身体の反応が良くなることを示唆しています。
歩数と死亡リスク
2023年に発表されたバニックらの研究では、1日の歩数と全死因死亡リスクとの関連性が調査されました。その結果、1日に約8,600歩歩くことで、死亡リスクを大幅に低減できることが示されました。この効果は、65歳以上でも以下でも同様に認められ、心血管疾患による死亡リスクの低減にもつながることが示唆されています。
活動的な生活で健康寿命を延ばす
1日の歩数が少ないと、脂肪酸化が阻害され、動脈硬化のリスクが高まります。不活動は、運動抵抗性と脂肪代謝の低下だけでなく、動脈硬化の進行を促進する可能性も示唆されています。一方、1日の活動量が多い人は、血中乳酸値の低下、血圧の低下、運動効率の改善、脂肪酸化の改善、運動強度の低下など、様々な健康効果を得ることができます。
不活動は脳の健康にも悪影響を及ぼし、認知症のリスクを高めることが分かっています。筋肉と同様に、脳においても不活動の影響は、運動だけでは十分に打ち消せない可能性があります。
これらのことから、健康維持のためには、座っている時間を極力減らし、1日8,000歩以上の歩行を基本とすることが重要です。それに加えて、ジムでのトレーニングやヨガ、ハイキングなど、個々の好みに合わせた運動を週に数回行うことで、より効果的に健康を増進することができます。日常生活の中で、こまめな運動を取り入れることを意識し、活動的なライフスタイルを送りましょう。