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鏡の中のおともだち(鏡像認知障害)

母の部屋には鏡が2つあった。ワードローブの扉に付いている姿見と鏡台。
2024夏の終わり頃から、鏡に映り込んだ室内の様子を指して「お隣りの家」
動く人影(母自身だったりワタシだったり)を「誰か居る」と言うようになり、ついには鏡の中の自分と話すようになった。

「いつ?ん?ほんとぉー うふふ。おたく家どこ?もう寝よ。おたく布団は?上がっといで、ほらココに。ん?そっち行こうか?あんたも来いって?どしたん?なんね、黙っとる。そこ犬がおる。そこよ、そこ。また明日。おもしろいね。あんた誰と来たん?」

独り言かと思って放置していたら、ちゃんと間を取ったりして会話のキャッチボールが出来ているみたい。
ワタシが傍に行くと、鏡の中の自分に「娘よ」と紹介する。
で、鏡の中にもワタシが居ることで気付いたのか ンッ?て顔して実物のワタシを見る。鏡の中と実物を交互に二度見三度見するから、認識できたかな?と思うけど、また別の話題で鏡の中の自分としゃべり始める。

鏡に映った自分の姿を自分だと認知できない『鏡像認知障害』はアルツハイマー型認知症の中期から後期にかけて現れる症状らしい。

「みつこ(次姉)ねえさん」「あいこ(長妹)ちゃん」「おかあさん」
日頃からだいたいこの3人が母の世界でのメインキャラ。
たまに現世に戻って 娘のワタシの名前が出てくるけれども。
記憶の逆行性喪失で 母にとって最後に残っている記憶は、姉妹や母親と暮らしていた二十歳代の頃ではないかと推察している。
記憶が二十歳代に戻っていれば、鏡に映るおばあさんが自分だとは思えないだろうね。

楽し気に話をしているときは良いのだけれども、「お宅」が「アンタ」呼ばわりに変わり、「私の服を盗った」「アンタがそんな事するとか思わんやった。返して!」と鏡の中の自分とケンカするようにもなった。
ワードローブの扉を激しく開け閉めしたり、鏡を叩いたりと攻撃的になったので、ワードローブの鏡に紙を貼り、鏡台には布をかけた。
べったり貼り付けた紙を剝がすことはしないけれど、鏡台にかかっている布は外してしまい、鏡台を揺さぶったり叩いたり危害を加えるようになったので、母が怪我をしないうちに処分した。粗大ゴミとなった鏡台は あちこち傷だらけだった。おしゃれが好きだった母が、化粧をし、身支度を整えるのに使ってきた鏡台。寂しいけれど仕方がない。長い間ありがとう。

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