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(短編小説)50歳になって思うこと
「信じられない。50歳だなんて」
亜希子はこの頃何度もため息をついている。1週間後に50歳になる自分になかなか落ち着かないでいる。30の時も40の時も、節目の年にはいろいろ思うことはあったが、やっぱり半世紀の区切りは大きく、50は重く響く。
子どもの頃に思っていた50歳なんて、遠い遠い未来だった。そんな未来にたどり着いてしまった。朝昼晩、朝昼晩、の繰り返しで50年も経ったことが、不思議でしょうがない。ご飯を食べて、寝たら、次の日で、という、それだけだったような気がした。もちろんその間、学校に通い、仕事をして、家族を持って、といういろんなことはあったけれど、だから50ですよ、といわれても、ピンとこないのだ。
そんなことを思ううち、人間以外も同じだと感じてきた。。庭の柿の木や、サボテン、そして向かいの古いマンションだって、50だ10だ25だなど、ふふふと自慢し合っているのかもしれない。
そんな折、現実に戻るタイミングがあった。それは国から送られてきたマイマイカードだ。マイマイカードとは、つい最近はじまった、個人情報が入ったプラスチック製のカードだ。添付してある説明書にはこう書いてある。
『50歳のお誕生日おめでとうございます。半世紀、生きられたあなた様には、プレゼントがあります。次のうち、一つをお選びください。お申込みはこちらのQRコードから‥‥‥』
「えー、何? 選べるの? すごーい」
読み進めると、箇条書きで、プレゼントが3種類載っていた。
① 足腰の衰えを防ぐ
② 皮膚の衰えを防ぐ
③ 頭の衰えを防ぐ
「なーんだ、そういうことか」
亜希子は心の底からがっかりした。
「まあ私は①番かな。何がもらえるのかしら。もしかしたら、空を飛べる魔法のほうき、羽のように軽い靴、メルモちゃんが持っていた若返るキャンディ。。。なんてこと、あるわけないよね」
気になって、ネットで検索してみた。出るわ出るわ、コメントでいっぱいだった。
「足踏みステッパー、めんどくさーい。家のなかにおいておくの邪魔」
「美顔ローラー、まったく効き目なし」
「漢字書き取りクイズ、小学生の息子のドリルと同じものだった」
「なるほど‥‥‥よくわかったわ」
夢のようなプレゼントを束の間でも空想していた自分にあきれ、すっかり気持ちが冷めてしまった。
「あーあ、こんなカード、いーらないっと」
亜希子はカードを放り出そうとした。その時、ふとカードの端っこにある、小さな文字に目が留まった。
『どの賞品もお入り用でない方へ。このカードを持って、お出かけください。きっと素敵なことが起こります』
「えー、なに? また何かあるのかしら。つまんないことだったらやだなあ」
亜希子はため息をつきつつも、マイマイカードをカードケースに入れて、持ち歩いた。
それほど期待はしていなかったけれど、誕生日の当日も、誕生日が過ぎても、何も起こらなかった。
「へーんなの、やっぱり変よ。マイマイカード」
太陽は今日も輝き、風は優しくそよぎ、月は静かにあたりを照らし、朝昼晩、朝昼晩と亜希子の日常は、続いていった。
==END==