包丁卒業宣言。
実家を出たその日に、包丁を買った。
そのときに買った包丁は今までずっと使い続けてきた。
簡易研ぎ器や、砥石を使って手入れをしながら、20数年。
でも、もうさすがに卒業の時が来たようだ。
刃が小さくなってしまって、とても使いにくい。
なんてことはない、ごく普通の包丁だが、それでもなにやら愛おしいような気がしてくる。
チビになるまで使い込んだのだもの。
このまま卒業してしまうのが、少しさみしい。
そう思ってしばらく、だましだまし使っていた。
しかしどうにもこうにも使いにくい。
仕方ないからスーパーの包丁売り場に行ってみた。
あるんだなぁ、こんな時に限って。
ちょうど使いやすそうなものが、期間限定特価になっている。
こういうのをご縁というのだろう。
買って帰った。
新しいのを買ったら、今までのは卒業しなければいけない。
きっと新しい包丁を使えば、快適に料理が出来るだろう。
たぶん思ってる以上に快適になる気がする。
でも。
20数年、苦楽を共にしてきた包丁と離れるのがさみしい。
これだけ長いこと一緒にいたんだから、簡単にはお別れできない。
あぁ。
包丁一本でこれだけ心を乱されるとは。
そうだ。
数日前の自分を思い出そう。
あの日、私は思いついたのだ。
「(大地震などで)モノが散乱しても、モノ自身の存在を後悔しないものだけを置くようにしよう」
チビてしまって、使い勝手の悪い包丁。
いつまでも取っておいて、もし散乱したらどうなる?
拾って収納するのも面倒。
…というか、そもそも包丁が散乱するのは危険すぎる。
使えない包丁は、一刻も早く退場していただくべきだろう。
これで納得できた。
卒業しよう。
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