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【世界を考える】なぜ豊かな国と貧しい国があるのか~開発経済学の視点から~

 グローバリズムにより世界中がつながり、技術の進歩によって生産性も大幅に向上している今日において、なぜ未だに貧しい国があるのでしょうか。フェアトレード、エシカル消費、などという単語も聞かれるようになった今、改めて考え直したいと思います。
 多様な論点がある中、今回は”開発経済学”における議論の変遷を概観します。

開発経済学とは?

 「開発経済学は途上国の貧困の原因や特質を明らかにし、貧困の撲滅を可能にする開発戦略のあり方を探求してきた経済学の一分野」(絵所, 1997)です。
 つまり、開発経済学を学ぶことで、「貧しい国がなぜ貧しいのか」「どのようにして貧しい国は豊かになり得るのか」という問いに対して示唆を得られることが期待されます。
 戦後の復興の必要性などから開発経済学が注目された第二次世界大戦後、様々な国際機関等が開発途上国に対して多様なアプローチで開発の取り組みを行ってきました。その試行錯誤の中で変遷してきた諸派の主張を概観します。

構造主義

 構造主義では、途上国の貧しさの理由として「供給における制約(硬直性)」に注目し、先進国と途上国の市場を異質のものとして捉えます。
 供給における制約とは、例えば十分な資本がなく初期投資の必要な産業が育たなかったり、農産物などの一次産品の輸出に依存してしまう、など、途上国から供給できる物が限られてしまうことを指しています。自由な市場の中で需要と供給が調整される市場メカニズムが途上国市場では先進国と同じようには機能せず、供給できるものを供給し続けても低い生産性や低い所得水準から抜け出すことは容易ではない、と主張します。

 よって構造主義では、途上国において経済成長を実現し望ましい所得分配を実現するには、産業構造を変えるため国レベルで計画を立て大きな公共投資などの形で産業を育てたりすることが不可欠と考えました。
 しかし、開発計画策定の失敗による非効率な大規模プロジェクトが相次いだことで批判が高まり、徐々に主流ではなくなっていきます。

新古典主義

 続いて有力になった新古典主義では、途上国の市場も先進国の市場と同じように市場メカニズムによる需給調整が働く、と主張されます。市場が機能しない(市場の失敗)ことを前提として政府の介入を必要と考えた構造主義とは対照的に、政府の介入が市場のゆがみを生んでおり、経済成長を阻害していると考えました。人的資本を重視するとともに、政府の介入を極力抑え、市場メカニズムを機能させることが重要とし、規制緩和比や貿易自由化などを勧めます。
 新古典主義の考え方に基づき、世界銀行やIMF等の国際機関が実施した「構造調整プログラム」では、財政危機にある途上国を救済する目的で、国による規制や計画を廃止し、市場経済化・貿易自由化を進めることを条件として融資や貸付が行われました。
 しかし、構造調整プログラムは、経済成長が進みつつあったインドネシア等の一部の国を除いてことごとく失敗に終わったとされます。

改良主義

 新古典派と同じ頃影響力を持ったのが改良主義です。改良主義では、構造主義や新古典派が前提とした「経済が成長すれば、やがて貧しい人にも恩恵が行きわたる」という考え方(トリックル・ダウン仮説)に疑問を持ち、経済成長を優先しても格差が広がり続ける現状を踏まえ、「そもそも開発の目的は経済成長ではなく、人々の雇用や所得を守り、全ての人がベーシックヒューマンニーズを満たせる社会を作ることである」と主張しました。ベーシックヒューマンニーズとは、人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なものを指します。
 人々のモラルに訴えかけ共感を呼ぶ考え方でしたが、一方で、ではベーシックヒューマンニーズを満たすために具体的にどのような施策が必要か?という点が検討しつくされておらず、コンセプトに見合う有効な具体的施策が見いだされないことで行き詰まるようになりました。

まとめ

 如何でしたでしょうか。どの考え方も完全に否定されたわけではなく、重要な主張を含み、一方で実践における難しさを抱えていることが分かります。貧困問題を考えるためには多様な視点が必要であり、各国の異なる状況を理解する必要がありそうです。
 今回はかなり単純化したお話となりましたので、詳細やさらに他の考え方もお知りになりたい方は、ぜひ参考文献にもあたってみてください。
 最後になりますが、筆者は本分野の専門家というわけではなく、文献にあたりなるべく正確な記述に努めておりますが、極度に単純化してしまっている点や理解の誤りがあるかもしれません。記述に正確でない点や誤りがあったり、疑問点やさらに知りたい点がありましたらご指摘・ご質問・ご感想等をいただけましたら幸いです。

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参考文献

開発経済学と貧困問題, 絵所秀紀, 国際協力研究 Vol.13 No.2(通巻 26 号)1997.10
指標から国を見る ―マクロ経済指標、貧困指標、ガバナンス指標の見方―, JICA 2008.3



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