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相思相愛

君に会えない寂しさを、どう表現しようか。

俺の事覚えてるだろうか?そんな事を考えながら、俺は仕事帰りのバスに揺られる。

コロナの影響で、最近はバスに乗る人も少なくなり、座席に余裕で座れる。

銀杏並木が少しづつ色づいていた。車窓から風景が流れていく。

桜木町の観覧車の前で別れてから、三十年経つ。俺は、彼女のことをなかなか忘れられず、独身のまま、今まで生きてしまった。

風の噂で彼女は、地元の人と結婚し3人の子供に恵まれ幸せに暮らしていると聞いた。彼女が幸せならそれでいい。

自分に言い聞かせて新たな出会いを求めるという気は全くなかった。

と、流れていく景色の中に、彼女によく似た人を見つける。

動悸がするが、まさかなと思い直す。


それが今日は、3度目なのだ。


俺は停車ボタンを押すと、近くのバスに停で降りた。

他人の空似だと思いながらも、彼女の後ろ姿を追いかけた。俺の気配に気がついた彼女は、振り返った。


やはり人違いだった。しかし顔の輪郭、仕草は彼女にそっくりだった。

「申し訳ありません。昔の彼女にそっくりだったものでつい、追いかけてしまいました。」

彼女は怪訝そうな顔を俺にむけたが、丁寧に詫びた俺の態度を見て少し表情を弛めた。

「もしかして母の昔の彼氏さんですか?」

俺は狼狽のあまりうろたえた。

俺は自分の歳を考えていなかった。

彼女は元彼女の娘である可能性を否定出来なかった。試しに母親の名前を聞いてみる。

「加奈子です。」笑顔が彼女によく似ていた。

「加奈子さんの娘さん?」

「はい、よく母が昔の彼氏さんのことを話してました。多分未練があったんでしょうね。親が倒れ親の仕事をサポートしないとって言う使命感でお別れしたと言ってました。私の父はとても優しい人だったのに。」

「母の思いはここにあらず。多分それが原因でうつ病になってしまった。そして数年前がんにかかりあの世に旅立ちました。」

「お母さんはお元気ですか?」彼女が振り返らずに立ち去る姿を今も脳裏に焼き付いている。

「母は、元気に今は好きなことをしてますね!父の闘病生活から解放されて、吹っ切れたみたいに。あのぉーなんで別れちゃったんですか?」

俺はあの夜のことを思い浮かべる。俺は絶対に別れないつもりだった。しかし、彼女は、遠距離恋愛なんて続かないと、キッパリ言った。

桜木町の観覧車の前。夜に見るとはなびのようだった。

あれから三十年。生まれてから半世紀が経つ。

加奈子の娘は、

「彼氏さんは、いや、元彼氏さんはご結婚されてるんでしょ?」

「ずっと独身のまま、今まで生きてしまったんです。今更結婚なんて考えてません。」

「それって母のせい?」

「そういう訳では無いが、彼女の事が忘れられなかったのは事実です。未練がましいやつなんです。」

「ずっと相思相愛だったってことですね。何だか悲しい。」

彼女は、複雑な顔をしたが、

「母もきっと今も貴方を忘れてないと思います。よろしかったら、一度会いに来ませんか?」

予想もしない展開になった。

「加奈子さんは今も鹿児島なんでしょ?」「いいえ、母は、私の家族と一緒にこの近くで暮らしてます。会社は父が死んだ後他の人に明け渡しました。潔いというか.……」

彼女は、手帳に加奈子の電話番号を書いて俺に渡した。

「今日のこと、母に伝えておきます。」

そして今から行くところがあると足早に立ち去った。1週間後、桜木町の観覧車の前で、彼女を待つ。




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