天使の輪
小学生の頃、朝早くから近くの公園でラジオ体操をするのがなんだか義務のようになっていた。行くとカードにハンコを押してくれ、皆勤だとお菓子の袋詰めが送られる。
それを目当てに、せっせと朝早く行く子もいたが、高学年になると、もう、面倒になり、家で寝ている方がいいやとなる。
親に言われて、渋々たまに行くと、クラスのアイドル的存在成美が、笑顔で「久しぶり!」と声をかけてきた。
「お前、毎日来てるの?」
「うん!早起きして身体動かすの気持ちいいもの。」太陽の光を浴び、頭に天使の輪が出来てて、笑顔が眩しくて、ほんとに天使ではないかって思う自分。
と、
予期せぬ一言が、返ってきた。
「私の家ね、お父さんとお母さんが離婚することになって、明日この町から出ていくの。だから、今年は皆勤賞無理だなぁ。」さらーっと言葉を流すから、何も悲しみや寂しさを感じなかった、。
始業式まであと2週間だった。
「あっ!そうだ。このカード哲司君にあげるから、この続きハンコを押して貰って!」
えへっと舌を出す成美の笑顔の中に寂しさを感じる。
「え〜なんで?他にちゃんと来てる奴いるだろう。山田とか。」
しばらくの沈…默…気まずい笑みを浮かべる。
「カードの事頼んだよ!子供会の人に哲司君が私の代わりにちゃんと来るっていっとくから、皆勤賞は、私の代わりに受け取って!」カードをほぼ強制的に渡された。ラジオ体操の後の一瞬の出来事だった。
夏休み最終日までラジオ体操に通う羽目になってしまった。彼女の言った通り、お菓子の袋詰めは、俺の手に渡された。
だけど何も嬉しくない。
9月になり。学校が始まった。彼女の席はぽっかり空いていた。担任が彼女の事を報告するが、少し彼女の言ってたこととは事情が違っていた。
「彼女は、重い病気で、都会の病院に入院しています。学校は、病院の中にあるので、きっと彼女は、みんなのアイドルになっていますよ。早く元気になることを祈りましょう。」
俺は、なんだかモヤモヤする気持ちで、たまらず、「先生!トイレ!」
教室から駆け出した……なんでだよ!トイレにこもったまま、涙が溢れるのを止められなかった。
担任が心配してトイレにやってきた。
「哲司君、成美さんからラジオ体操託されたんだってね。成美さんは、小さな頃から入院を繰り返していたの。ここ数年は落ち着いていた。だけどまた急に具合悪くなって、大きな病院に行くことになった。病気の事は先生以外の他には言ってなかったみたいね。夏休みの度毎朝欠かさずラジオ体操は、彼女の、元気での証だったの!」
俺は涙が溢れるのを抑えられない。
「そんな大切なこと俺になんで頼むの?」
「成美さんにとっては、哲司君が特別な存在だったからじゃないかなぁ。」
「ただ、一緒にに笑って話すだけの友達だったのに?」
「普通の中に大事なものが沢山あるのよ。まだ今はちょっと難しいかもしれないけどね。哲司君がいつも通り笑って過ごすことが、成美さんの望みだと思うよ!」
家に帰って机の上に置きっぱなしにしていたお菓子の袋詰めを開ける。
そういえば子供会の人に、
「成美さんの気持ちだからね!」って言われたっけ。
沢山のお菓子のあいだから、小さなメモを見つけた。
「また会おう!哲司君が私の元気の素だから……普通に笑って!」
なんなの!俺は初めて成美の気持ちに気づいた。
それから数年後、成美は天使の輪を頭につけて、天に旅立った。
俺は、今、医師の卵になって、日々を過ごしている。成美が、遺したメッセージ胸に、命の重さを感じつつ笑顔で過ごしている。