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イグアナーその先
春一番が都会のビルの間を、容赦なく吹き抜けていく。もうマスク生活にもすっかり慣れてしまって今更、マスク自由に外してもいいといわれても、なんだか自分の顔をさらけ出すようで恥ずかしい。
最近はマスクの種類も豊富で今は、春らしいパステルカラーをつけている。
優子はもう還暦を迎えようとしていた。実は、5年前夫と熟年離婚し、東京で一人暮らしをし、母のいる介護施設で働くようになった。母は年の離れた夫、その間にできた娘と、仲睦まじく暮らしていたのだが、母は、脳出血で倒れ車いす生活になった。家族は内をリフォームして8年間は家で暮らしていたが、家族は、夫一人になり、体力的に無理が出て、施設にお世話になることを、母自身が望んだのだった。
最近、母は、弱弱しくなって恋する乙女のような昔の面影は全くない、ただ、日の当たる窓辺で外を見つめる生活。時々夫が面会室のガラス越しから様子を見に来るがただ見つめる母のどんよりした瞳にため息をついて帰っていく。その後ろ姿に優子は、「吉田君いつもありがとね。お母さんとる会えず、落ち着いて生活してる。」
吉田は、首を横に振った。『礼を言うのはこっちでしょ。家族でさえガラス越しでしか会えないご時世に君は仕事としてそばにいる。君の決断力にはいつもおどろかされるよ。」
優子はふふふと笑った。「きっと母親譲りの遺伝子が私の中に入ってるんだよ。」
二人は顔を見あ合わせて笑った。
イグアナがらみで知り合った元夫は、どうしているか、今更のように思う。しかし、人生はどこでどうなるかわからないものだ。
朝のニュースで春一番が今秋南からふきあげるらしいと、言っていた。
吉田は、、振り返って、「今度、食事でもどう?」と言ってから、
「たまには息抜きも大事だよ。割り勘でね。・」
そういって立ち去った。
イグアナのみどりさんの子を思い出す。
優子仕事帰りに爬虫類ショップへ寄ってみようと思った。
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