『ワルキューレ』 作者: 作・土屋ガロン、画・和泉晴紀
特に取り柄がある訳でもない、冴えなーい若者ヒロシは、ある日突然まんまヤーさんな二人組に声をかけられる。
思いっきり警戒するヒロシに向かって、ヤーさん二人組は唐突な申し出をする。
「映画俳優になりたくないか?」
どうして僕みたいな非モテが・・・と、訝しむヒロシ。
「あ、エキストラのバイト?」
「違う!!主演俳優だ!!」
アイドルにしてやるとか言ってレッスン料ふんだくるあの手法か、と怪しむヒロシだったが、ヤーさん二人は却って激昂し、こう言った。
「払うのはこっちだ!! 日給10万」
原作を担当するのは土屋ガロン。つまり、狩撫麻礼だ。『ルーズ戦記 オールド・ボーイ』で韓国やハリウッド映画界を賑わせた実績があるからこその、映画を題材にしたこの漫画にして、このペンネームの選択なのだろうか。
作画は、和泉晴紀。『かっこいいスキヤキ』『ダンドリくん』が思い浮かぶ。
で、原稿の上がりを見て、それに合わせて先行きを変更していく。加えて、コンビを組む相手の作風や個性を作品に取り込んでいこうという主旨の狩撫麻礼のスタイル・・・というかプロセスが、ここでもモロに発揮されていく。
連載開始早々に、ヒロシから仕掛け人の男の方にフォーカスは移動する。それに伴い、素人俳優を使って国際的な映画祭で賞を獲るという無謀な計画も、別な意味を持っていく。
仕掛け人は、この国の実体経済とは別のオルタナティブなら地下経済で暗躍する超フィクサー。彼にとって、ヒロシなどには元々なんの興味は無かった。ヒロシを主役に選び、仕掛け人に持ちかけたのは、若きSMの女王。彼女の求めに応じた結果だ。
異様な全能力にとらわれて、マネーと権力を持て余した仕掛け人には、刺激が必要だった。その為に、彼はSMの女王の”命令”に従ったのだ。
そんな仕掛け人を、アドレナリン・ジャンキーと表現するもぐりの精神カウンセラーの女医、SM嬢に数多くの映画によって啓示を与えた芸術家風の初老の男など、登場人物を加えていきながら、映画プロジェクトは更に進行する。
事件・芸術・映画は妖精に触発される。
映画という大いなる”愚行”に向けて、彼らは暴走していくのであった。