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『湯けむりスナイパー』 作者: 作・ひじかた憂峰、画・松森正

秘境の温泉旅館「椿屋」で働く男。その名を“源さん”。「リストラされたサラリーマン」という名目で働いているが、その実、かつての彼は、血塗られた過去を持つ一流の殺し屋だった。
今その彼が持つ望みは、この地で余生を穏やかに過ごすことだけだった。

原作者のひじかた憂峰は、狩撫麻礼の別ペンネームである。『ライブマシーン』、『バッドブラッド』で組んだことのある松森正が作画を担当して連載された。
普通ならば、こんな設定で始まるのだから、なんだかんだと過去のしがらみやら、裏社会から忍び寄る影やらといったヤバめのハードな展開が予想されるが、椿屋と源さんの周囲で起こるトラブルと、それに対処していく様が描かれていく。
確かに源さんの”得意分野”が発揮されてトラブル解決に至ったりはするものの、人と人の交流を捉えた人間ドラマがメインになっているのが面白いところだ。

本作は、2009年にテレビ東京系でドラマ化された。その全十二話は、遠藤憲一の初主演作品として話題にもなり、その後スペシャル版も二作制作された。
単行本は、『湯けむりスナイパー』全十六巻、『湯けむりスナイパー2 花鳥風月編』全二巻、『湯けむりスナイパー PART III』全三巻。
途中二度ほどの中断時期はあったものの、狩撫麻礼にとって十五年にもわたる最長期連載となった。

狩撫麻礼は言う。
人生はリセット可能か?
殺し屋だった過去を隠して、別の土地で生き直すことに賭けた男の物語。
秘境の温泉街の、それぞれに不幸せな負け組男女群像との深い交流の中から、やがて立ち現れてくる《光明》のようなもの。
人は愛し愛される他者の視線さえあれば、決して己の信念を曲げずに生きてゆくことができる存在である。

また、狩撫麻礼は或るところで、本作の主人公である”源さん”は、『ライブマシーン』に於けるそれ、つまり”有山礼二”であると言っている。
その言葉をそのまま受け取るのはどうかと思うが、かつて暗く幕を引いた礼二やその他のキャラクターたちに、今一度人情味溢れる安らぎの場を与えたい、そう願ったのだろうか。


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