『チャンドラー短編全集2 事件屋稼業』 作者:レイモンド・チャンドラー,(翻訳)稲葉 明雄
「事件屋稼業」
ダサかっこいい絶妙な和訳と思う。原題は「Trouble Is My Business」である。この表題作の中で、主人公は別の節回しでしばしば軽口を叩いてみせる。
「もめごとは僕の商売さ」
彼の商売とは私立探偵。その仕事を、いや彼の生き方そのものを指した科白と言える。
原作:関川夏央、作画:谷口ジローの「新・事件屋稼業」という大変息の長い私立探偵物の漫画が有るが、勿論本作をもじっている訳だ。因みに、この漫画は寺尾 聰主演でドラマ化されているが、遺憾ながら全く別物みたいにされているので、視聴には注意を要する。
チャンドラーの良さは巧みな比喩と洒落た表現の文体であるが、前後の文章で捻りを加えて唸らせることが多く、キザな科白の一言でビシッと決めてみせるというのは意外と多くないので、なかなかその魅力を伝え難い。本作でもやはりセンスを感じる表現が多々有るが、実際に読んでみれば、その魅力は一人称形式に依るところが大きいことが分かるだろう。
だから、続く「ネヴァダ・ガス」は三人称形式である為、大分趣を異にする。客観的に事象を捉えながら、読者の視点を意識した様な文章には、まるで映画を観ているかの様な印象を受ける。
本作は比較的初期の作である。チャンドラーはやがてハリウッド映画界に関与するが、最初は原作者としてであったものの、後には脚本も手掛ける様になった。元々映画の仕事に興味があったのかもしれない。
定番と言えよう一人称形式の「事件屋稼業」「指さす男」、それとはちょっと雰囲気が違った三人称形式の小説「ネヴァダ・ガス」「黄色いキング」、さらにまた、本書には小説だけでなく、チャンドラー自身の手によるハードボイルド宣言として名高い「簡単な殺人法」も収録されている。
このバラエティーさは短中編集ならではものと言える。
収録作品
「事件屋稼業」
「ネヴァダ・ガス」
「指さす男」
「黄色いキング」
「簡単な殺人法」
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