『火の鳥 太陽編(上中下)』 作者:手塚治虫
1986年から1988年にかけて小説雑誌の『野性時代』に連載された第12部は、作品として発表されたものとしては最後のエピソードで、実質的なシリーズ最終話となっている。
これまで各話毎に表現方法や作風、火の鳥の扱い方など様々な変化や工夫を凝らしてきているが、本作も特異な作りとなっている。
これまで『火の鳥』は、一作毎に過去と未来とに、交互に舞台を重ねながら少しずつ時代の振り幅が狭まっていっていくというスタイルを通してきた。だが本作に於いては、7世紀がメインではありながら、21世紀の未来も別個に描かれるのである。
何故これまでの慣習を破り捨てたのか、単に奇をてらったものなのか。二つの時代を同時に著すことが本作に与えるものとは?
西暦663年、韓国の地での戦いがあった。倭の援軍を受けた百済軍は、それでも唐・新羅連合軍に惨敗してしまう。
唐軍に捕らえられた百済王一族のハリマは、顔の皮をはがされ、死んだ狼の皮を被せられてしまう。
瀕死のハリマを助けたのは不思議な老婆だった。老婆はハリマのことを腐狗(クチイヌ)と呼んだ。書中の注記では、「『日本書紀』の註によれば、当時の朝鮮でよく使われた悪口らしい。「ろくでなし」などの意か」とある。
ハリマは老婆と共に倭国、つまり日本へと渡る。そこでハリマは、狗族(くぞく)という人と狼の二つの形を持つ民族と出会う。
狗族は、かつては人間から産土神(うぶすながみ)として崇められていたが、仏教の侵攻によって魔物とされ、山奥に追われて暮らしていた。
狼の皮を被せられてからのハリマは、見た目のままに半獣半人の存在になった様で、狗族とも分かり合う。
ハリマは、狗族一族のために力を貸すことを誓い、仏教との戦いに身を投じていくのであった。
そしてハリマは度々悪夢に唸らせられる様になる。それは見たこともない世界。だが、そこでも宗教戦争が行なわれていた。
21世紀に於いては、火の鳥を神と崇拝する宗教団体が地上を支配。地下に追われたシャドーという宗教組織と抗争を続けていた。
悪夢を重ねる内に、シャドーに属する殺し屋の板東スグルとハリマは精神が繋がっていくのであった。
二つの時間軸での各々の宗教戦争を描いた本作について、手塚治虫本人はこう語っている。
「信仰というものは人間が作ったものであって、宇宙の原理とかいったものではなく、時代と共にどんどん新しい文化として取り入れられていき、そこで必ず古い宗教、文化との葛藤が生まれ、それによってまた新しい世界が生まれてくる。その繰り返しなんだということを描きたかったのです」
そんなシリーズ最長の長編となった『太陽編』はなかなか思い切った作りをしており、仏教側の尖兵たちは魔力めいた力を発揮し、その所業も邪悪で、神というよりも悪魔の様に描かれている。ハリマや狗族との間で繰り広げられる戦いは、まるでSFのサイバーパンクものの如きである。
また、一部『異形編』との関連も描かれていたりと、不可思議で興味深い一作である。
ところで、私はものすごい違和感を感じながら本作を読んでいた。それは画風だ。私の頭の中にあった手塚治虫の完成されたタッチが、妙に崩された荒々しさ。それが本作には伺える。
一方で、メカの作画などは昔年のもっさり感は消え失せ、むしろ洗練されている。
マンネリによる停滞。それを嫌った手塚治虫は、敢えて”落書き”とも言える様なエモーショナルな作品作りを選んだのではないか。そう感じ得るのである。
ここで、改めてシリーズの発表順を記しておこうと思う。
『黎明編(漫画少年版)』
『エジプト編・ギリシャ編・ローマ編』
『黎明編(COM版)』
『未来編』
『ヤマト編』
『宇宙編』
『鳳凰編』
『復活編』
『羽衣編』
『望郷編』
『乱世編』
『生命編』
『異形編』
『太陽編』
実は、手塚治虫はミュージカル用の原案を書き残しており、これを基に直木賞作家の桜庭一樹が小説を書き、2021年に『大地編』として書籍化されている。
また、ミュージカル用の原案は一旦破棄され、内容を西暦2000年の大晦日から2001年の始まりにかけての未来に移して新たに書き起こしたものが、手塚治虫が亡くなる前日に公演された。
漫画ではないが、これが手塚作品としての『火の鳥』の最終作となったのである。
さて、壮大な物語の終わりには、『火の鳥 サプリメント in ウォーター編』は如何でしょうか。
特許取得のサプリメントを配合した、飲むサプリというオンリーワンで新感覚のお水『サプリメント in ウォーター MCM のめぐみ』が火の鳥パッケージとなったものです。
ちゃ〜んとした手塚プロダクションとのコラボ作。
決してパチモンではありませんので〜。
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