『孫子の兵法』 作者:守屋 洋
言わずと知れた兵法書。
大昔の中国春秋時代に書かれたものであるにもかかわらず、今なお数々の人々に恩恵を与え続けている。
その孫子という人物とは、当時の軍事思想家である孫武であろうとされているが、いまいちはっきりとはしていない。
三国志の主要人物の一人である曹操なども、熱心にこの兵法を読み、研究し、それだけでは飽き足らず自ら改めて編纂し、曹操版の孫子の兵法を出稿したと言う。
そして、『Art of War』と名を変え、海外でもポピュラーな書物となっている。
現在に於いてもなお強い影響を保っている軍事思想の書となれば、私も一度読まねばねと思い手に取ったのは守屋 洋の書したものであった。
評価は分かれるが、原書を平易な言葉で書き直してくれているので私としては有難い。
わざわざ兵法書を書き記すくらいなのだから、すなわち孫子とは好戦的な人物なのであろうと考えるのは早計というものだ。
孫子は、戦争とは国と国を賭けた重要な政のビッグイベントであり、極めて深刻に捉えるべきことであると考えていた。
だから、最良なのは戦いを避けること。
次には、戦うことなくして勝つこと。
しかして、戦いを避けられなくなってしまった場合には、いかに被害を受けることなくして勝つか、とういことを考えていた。
つまり国というものを守ること、それが目的の書なのだ。
だから、まず戦いをすべきか、避けるべきかを見定める。彼我の戦力差を分析するツールとして、五事七計を挙げる。
五事とは、道、天、地、将、法を指す。
七計とは、五事に対する評価方法で、以下の通り。
1. どちらの君主の政治が良いのか。
2. どちらの将軍が有能なのか。
3. どちらの国が天の時と地の利を得ているのか。
4. どちらの法が公正に執行されているか。
5. どちらの軍隊がより強いのか。
6. どちらの兵士がより訓練されているのか。
7. どちらの賞罰が公正に行われているのか。
そして、戦うとの決が下れば、どのような作戦を立て、いかに戦闘に拠らずして勝つか、どのように軍勢を保つか、どうやって戦場で主導権を持つか、戦局に応じてどう臨機応変さを発揮するか、地形によってどんな戦術を選ぶか、いかにして敵を欺くか。スパイを使って如何に自軍を有利に持ち込むか。
など、十三篇に分けて書き連ねている。
大事なのは、戦に勝っても余力が残らぬほどにこちらが消耗しては意味が無いということだ。
その後の国の運営がままならなくなってしまうだけではなく、ともすれば、別の国から攻め寄せられ、自らが滅ぶ危険性をも孕んでいるのだ。
いかにも、現代社会のビジネスにも当て嵌まりそうなことではなかろうか。