『人間以前 ディック短篇傑作選』 作者: フィリップ・K・ディック
事情はよく知らないが、近年になって改めて連続刊行されたディック短篇傑作選も本書で6冊目。2014年に発刊されたものだが、とうやらこれでひと段落らしい。ディックの全短篇約120篇の内、64篇を編纂したことになるのだと言う。
だから以前読んだことのある短編も含まれてはいるが、12篇中、『地図にない街』『宇宙の死者』『シビュラの目』の3篇だけだからものの数ではない。
本書に収録されている作品たちは、ハードSFというよりもファンタジー色が強い幻想系が取り揃えられている。
存在しない駅名の定期券を買い求める男の来訪を導入部とする『地図にない街』、ひょっこり現れた小柄な妖精たちの王に選ばれてしまった年老いた男の勇気ある戦いがなんだかほわっとさせる『妖精の王』。
間違った死、間違った蘇りが世界を変える『この卑しい地上に』、どういう発想から生まれたのかが気になる寓話的な『欠陥ビーバー』。
地球に帰属する星系内で謎の収穫に走るアダーラ人たちの目的を探る、書籍初収録作『不法侵入者』、人気の高い長篇『ユービック』と同一の設定とされるサスペンス仕立ての『宇宙の死者』。
ホラータッチの侵略SF『父さんもどき』、未来社会故の親子の断絶を短くも淡麗に描いた『新世代』。
ロボットを用いて競争社会を皮肉っている様な『ナニー』、もし、国防を国家ではなく民衆の負担で行なわなくてはならなくなったら? 『フォスター、お前はもう死んでるぞ』。
表題作の『人間以前』は資源が飢えた未来に於ける人間の間引きをテーマとしており、中絶の権利を主張する団体から非難の手紙を受け取ったという。そして最後には、異色作という意外に形容できない神秘体験に基づく晩年の作品『シビュラの目』。
これらSF12篇を収録している。
収録作品
『地図にない街 The Commuter』
『妖精の王 The King of the Elves』
『この卑しい地上に Upon the Dull Earth』
『欠陥ビーバー Cadbury the Beaver Who Lacked』
『不法侵入者 The Cosmic Poachers』
『宇宙の死者 What the Dead Men Say』
『父さんもどき The Father-Thing』
『新世代 Progeny』
『ナニー Nanny』
『フォスター、お前はもう死んでるぞ Foster, You’re Dead』
『人間以前 The Pre-Persons』
『シビュラの目 The Eye of the Sibyl』
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