「東北の秋」高村光太郎
芭蕉もここまでは來なかつた
南部、津輕のうす暗い北限地帶の
大草原と鑛山つづきが
今では陸羽何々號の稻穂にかはり、
紅玉、國光のリンゴ畑にひらかれて、
明るい幾萬町歩が見わたすかぎり、
わけても今年は豐年滿作。
三陸沖から日本海まで
ずつとつづいた秋空が
いかにも緯度の高いやうに
少々硬度の透明な純コバルト性に晴れる。
東北の秋は晴れるとなると
ほんとに晴れてまぎれがない。
金の牛こが坑(あな)の中から
地鳴りをさせて鳴くやうな
秋のひびきが天地にみちる
読書に朗読に、ご自由にお使いください。
出来るだけ誤字脱字の無いよう心掛けましたが、至らない部分もあるかと思います。
個人的文字起こしなので何卒ご容赦下さい。
底本:「高村光太郎全詩集」新潮社
昭和四十一年一月十五日発行
「典型」以降(昭和二十五年~昭和三十年)