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コロナ鬱になりかけた私が、タイのBLドラマに人生救われた話。

2020年 春。
私は絶望していた。

新型コロナウイルスの影響により、ライブは中止。
スタジオも密だから危険とのことで、ダンス関連や制作の仕事も全キャンセル。
繋がりがあった会社は今どうなったのかわからないところもある。

そう、30歳にして事実上ニートになった。


ただ、家にこもって曲を作ることは出来るし、ファンに対価をいただいている以上それは立派な仕事だ。
練習する時間だっていくらあってもいい。なのでそれはもちろんやっていた。
でも、やればやるほど自分の中でどんどん苦しくなっていった。

今回多くの表現者たちが一度は考えただろう。
自分たちがエンターテインメントを届けていることの意味を。
そして己の無力さを。


成田麻実の音楽活動は間もなく3周年を迎えようとしている。
2020年は30歳になった節目の年でもあるし、とにかく対バンライブに1本でも多く出演して、地方遠征、フルアルバムのリリース、そして規模を大きくしたワンマンライブと、自分の中で華やかな構想が出来上がっていた。
私にとって記念すべき1年間になる予定だったのだ!


その頃、浮かれて外出している人の姿をテレビで見てはナーバスになり食欲が落ち、SNSで様々な人の叫びを見て毎晩泣いた。
今回のコロナ渦における対応や発言で、人間不信に陥った。
着飾るのも仕事のうちだったが、もうしばらくナチュラルメイクすらしていない。
挙げ句の果てに身近な人に対してもイライラして喧嘩をし、落ち込む。どんどん鬱っぽくなっていた。


そんな私は、「こんな時だからこそ音楽を!」なんて口が裂けても言えなかった。


こうして悶々とした日々を過ごすうちに、あっという間に5月になった。
相変わらず私は、いまいち気合の入らないルーティーンのような練習と曲作りに向き合っていた。
自分にとって何が大切で、人のために何ができるのか、というか生きてる意味はなんなのか。ずーっと考えていた。
何も信じられなくなって、SNSをチェックする回数も減っていった。

しかしふと目にした友人のツイートで、私の生活が激変することになる。



ツイート主の彼女はもう何年も前からの友人で、美人で聡明で愉しい憧れのお姉さんだ。
ご飯に出かけたり遊びに連れてってもらったり親しくさせていただいている。大人として心から尊敬できる大好きな人。

その彼女がある日「タイのBLドラマ最高!2getherみんな見てお願い!」的なことをTwitterに連投し始めたのだ。とにかく連投だった。


「「タイのBLドラマ」」


最初は何が起こったのかわからなかった。
ん?タイ?ガパオライスのタイ?名倉さんのような雰囲気の殿方が大人気の?ドラマ?BL?え?
パニックだった。

タイってあのタイだよな・・・。行ったことないし・・・。どんなドラマか想像もつかない・・・。でもBLは見たい・・・。
(この際だからはっきり言うが、私は女子高生の頃からBLと百合作品が大好きな腐女子だ)
しかしどちらかといえば海外作品は、NYやパリが舞台の作品が好きだったし(黙れ)
韓流ドラマも苦手だった私が、タイのドラマにハマるはずがないだろう。
でも彼女が面白いって言ってるんだからいい作品かもしれない・・・。それくらい彼女に対する信頼は厚かった。


その日のうちに、まずは彼女がオススメしている「2gether」とやらのEp.1を観た。
なんとyoutubeで全話公式配信されているのだ!コップンーカー!タイすごい!!!更に有志の方が日本語字幕までつけてくださっている!助かる!
(※2020.6.4の発表だと、版権の関係で今後日本からyoutubeでは視聴出来なくなるそう。残念。大人の事情…。)


そして観終わった私
「・・・・おおおおおおおーい!最高やないか!!なにこれ!!内容面白い!顔がいい!曲がいい!!こんな素晴らしい世界がまだあったの?!?!?!?!」

そのままGW最終日には、当時公開されていたEp.11まで8時間ぶっ通しで見た。
おいおい、これは、、、あかん。足を踏み入れたが最後だった。久々に1人盛り上がってプシュっとやった缶ビールも止まらず泥酔して朝を迎えた。


そのままスルスルとタイの沼へ堕ちていった私は、他の作品や俳優さんを調べまくった。
ただイケメンがイチャイチャしているだけではない。ドラマとしてちゃんと面白い。

(「Theory of love」はOffくんとGunくんの演技力半端ないし切ないラブストーリと途中からの視点の変化、実在する映画とのリンクなど細かく作り込まれた素晴らしい作品。オススメ!)


そこでさらに運命の出会いを果たすのであった。


Kristくんの深い沼へ華麗にダイブ

彼は「SOTUS the series」というタイBLの金字塔とも言われる有名作品に出演されている俳優さんなのだが、なんと音楽活動もやっている!ひゃー、推しが音楽やってるなんて!まさに運命!!!(運命の部分はスルーしてください)
お父様の影響で音楽を始めたらしく、色んな楽器を演奏できる上に歌もうまい〜!!!更にダンスも出来るしイケメンだしお調子者だしピシンのこと好きすぎて可愛い〜!!!


Kristくんの相方で(SOTUSでカップル役だったがその後もイベントなど2人セットのことも多く、プライベートも仲良し(にっこり)甘えたり嫉妬したりいつも激しいKristを優しく見守るまさにスパダリ)笑顔が素敵なSingtoくん

調べていくうちに、KristSingtoの2人(熟年夫婦)が好きという方がとても多いということがわかった。私もその1人だ。
公式やファンがどんどん情報をアップしてくれているので、1日24時間では足りないくらい、幸せな動画や写真が流れてくる。教科書で学んだ「供給過多」というワードを初めて実感した瞬間であった。


2人を大好きになったことにより幸せホルモンで日常的には少し元気になってきたが、ここから、シンガーソングライターとして堕落した私を引っ張り上げてくれる出来事が起こっていくのである。



KristSingtoのファン、そしてタイ俳優のファンの方々は、とにかく推しの幸せを願っている!
そして彼らがもっと有名になるように、とにかく惜しみなく宣伝・拡散をするのだ。

私は独占欲が強い。好きな人が有名になることをちょっと嫌だなと思ったことも前はよくあった。(よく地下アイドルがメジャーになった途端ファンを辞めるみたいなのと似た心理)
知る限り日本人は特にそんな人が多い気がしていた。自分が一番推してるんじゃ!みたいな。笑

でもタイ情報、ものすごい勢いでみんなが宣伝するの。
どれだけ実力のある俳優さんなのか、どれだけ面白い作品なのか、どれだけみんなで熱く応援しているのか。ファン同士で寄付を募ってスタッフにまで差し入れをしたり、街頭ビジョンに映像流したりもする。そしてどんどん愛をつぶやくのだ。彼らに喜んでほしい一心で。
どうしてそんなことまで出来るの?なんて綺麗な心の持ち主なの・・・!?
書き出したらキリがないけれど、とにかくファンが熱い、そして清い。新参者のファンに対してもめちゃくちゃ優しい。むしろ歓迎ムードがすごい。

会えないけれど、みんなで好きなことについてわいわい言うの、楽しいなー。
そんなことしばらくなかったから、本当に楽しい。


「気に入ったものを良いと言う、好きなものは好き、それを誰かと共有する」
なんて素晴らしい文化なのだろう。

そもそもmixiとか昔のSNSはこんな感じだったよね。すっかり忘れていた。


みんなが提供してくれる情報を脳内に取り入れていく中、私は溢れる気持ちが抑えられず、彼らに関わる曲を趣味でカバーし始めた。なんせ暇だった。耳コピもいい練習になる。
好きすぎて演奏を真似するなんて、昔SPEEDやモー娘。のビデオテープを何度も見て振り付けを覚えていた頃みたいだ(世代が…笑)。
単純に楽しかったしそんな自分のことがちょっと嬉しかった。


そしてこれを何の気なしにスマホで撮って投稿したら、地味にバズったのだ。

SOTUSの挿入歌。短いピアノのフレーズ。
ええええまじ?これみんな拡散してくれるの?!コメントくれるの?!泣くんだけど・・・


そしてタイ語の曲を日本語で意訳して歌ってみた
(Krist-Singtoが歌った結婚ソングのカバー)

ひえええええええ700RT超えてるう500いいね超えてるう(2020.6.5現在)
(いいねよりRTの方が数が多いあたり、KSファンの「これいい曲だから知ってほしい!まじで!」という熱心な感じが伝わってくる。すごい。)
「2人にも聞いてほしい!」とわざわざ本人たちにまで拡散してくださったり、日本語の歌詞がわからないであろう外国の方々からもたくさんコメントをいただいて、フォロワーも増えて、もう、どうしたらいいのかわからなかった。
どうしてみんなそんなに優しいの?!こんなことしてる私のことウザくないの?!


あー!!!世界って広い!!!!!
頭ではわかっていても、それを実際に体験することってなかなか無い。
(我々は「世間って狭い」のほうがよく使う。)
島国日本の小部屋から発信したコンテンツで、見知らぬ誰かが癒されたり楽しんだりする時代なのだ。


本当に歌が好きで表現したいと思って音楽活動を始めたことを、辛くて時々忘れてしまう。忘れた方が楽な時もある。
でもやっぱり私は、歌ったりピアノ弾いたりすることがそもそも大好きなんだな。そして誰かに聞いてもらえた時、その大好きは更に大きくなるんだね。
そんなことを少しずつ思い出させてくれた。


(ちなみに2geの動画もアップしたけどあまりメンションなかったので、KSファンのアンテナが凄すぎるのかも。今後もたまに動画撮るつもりだけど、バズるとかそういうのはあまり気にしてない。あくまで趣味ということで。)



この出来事を経て、私はライブハウスからの配信ライブに臨んだ。

5月30日は、KristSingtoのファンミーティングの日だった。

V LIVEというサイトで、初めて世界中のファンに向けて有料生配信でパフォーマンスやトークをするというもの。
私はコロナで自粛して以来、2ヶ月ぶりに生活必需品以外にお金を使った。
そして自分の配信ライブとガッツリ日付はかぶったけれど、時間は絶妙にズレたので全編リアルタイムで見ることができた。


Kristくん、最初は緊張からなのか声が震えてピッチもリズムも安定しなかった。
それを見て、失礼ながら私の中で何かが吹っ切れた。
遠い外国にいる画面越しにしか知らないKristくんが、とても人間らしく感じられたのだ。

自分と同じ人間が、こんな状況でももがきながら懸命に届けようとしている。
きっと満足にリハーサルもできなかっただろうし(ちなみにSingtoくんは卒論提出の数日前だったらしい)、普段と違う環境でやりづらいに決まってる。でも、そのひたむきな姿に心打たれて周りもファンもついてくる。
後半はすっかり調子を取り戻して、素敵な歌声を響かせてくれた。
映像を見ている何割かの人はタイ語がわからないであろう、それだけでもものすごいプレッシャーの中、2人は最高のパフォーマンス(とファンが空気になるような2人の世界(すなわちイチャイチャ))を披露してくれた。
そして相方、ファンへのメッセージを熱く泣きながら語った。抱き合った。ファンも懸命にコメントを送った。
#PERAYAasONE


世界って広い!人と人との繋がりってすごい!音楽って最高!
改めて感じる。
ちなみにこの配信、有料にも関わらず10万人以上が観ていたそうだ。


さて、私は30分後に自分の出番を控えていた。
今日、出来ることは?届けたいものは何?


ずっとウジウジしていた。
物理的な意味で目の前にお客さんはいない。ネット配信なので、何人がどのアーティストを目当てに見ているのかわからない。誰が見てるのかもわからなかった。
その場の雰囲気でごまかしはきかない、マイクに乗った音がそのまま配信されるから、実質公開レコーディングのようなものだ。怖い。良くも悪くも一週間アーカイブに残ってしまう。
それらの事実を深く考えすぎて、5月中旬の生配信は緊張したまま終わった。


コロナが流行し始めた頃ライブハウスで集団感染があり、まだ落ち着いていない今日無観客とはいえライブハウスで演奏することに多少の後ろめたさもあった。
医療従事者の方々が、ライフラインを繋いでくださってる方々が、命の危険と隣り合わせの中一生懸命働いているのに、私は歌なんか歌ってていいのかという思いもあった。
いくらプロだからと言い張っても、これは自己満足なのではなかろうかと、ずーっと考えていた。


でも、私だってこのままでは終われないのだ。
30歳ニート。失うものはもはや何も無い。
今年掲げた華やかな目標、まだ叶えられる可能性はある。
何より、数分前にあんなかっこいい生き様を見せつけられて、全力でやらないわけにはいかなかった。
とにかく自分の演奏に集中しようと思った。あるがままの姿を見せればいいのだ。
配信で世界中の人に胸張って魅せられる自分でいればいい。それで誰か1人でも何か感じてくれたら。


結果、久しぶりに自分でも納得のいくライブができた。
いい意味で周りが見えなくなる気持ちのいい瞬間だった。
もちろん後から聞き返せば技術的に改善したい点は沢山あった。
いつかまたウジウジした元の自分も顔を出すかもしれない。
でも、今日の吹っ切れた感覚は一生忘れたくないと思った。
幸せだった。


私は人間だ。
声が震えていたKristと同じ人間だ。
緊張もするし嫉妬もする。落ち込むしテンション上がるし泣くし笑う。
でも、その時自分がどうしたいか、誰に何を届けたいのか、ただそれだけなのだ。
そのためにしっかり準備をする。技術を磨く。
まず、いい作品つくっていいライブをする。それ以外の悩み事はそのあと考えればいい。
実際こんな状況下だからこそエンタメに救われる人がいるんだ。私みたいに。
救われた分、今度は自分も恩返ししなくてはならない。


タイのBLドラマ、俳優、そしてファンの熱い文化に触れて、純粋な気持ちを取り戻した気がしている。
大げさすぎる表現かもしれないけど、生きている意味を取り戻したくらいの感覚だ。

人生絶望していた私に光を与えてくれた。本当にありがとう。
これからも追い続けるよ。負けないように私も頑張らなきゃ。


あ、そして今月から少しずつ案件もスタジオも再開して、無事にニート脱出した!必死に働く! 

いつも応援してくださるみなさんの顔を思い浮かべて。
前へ進んでいくよ。


そして今なら自信を持って言える。

「こんな時にも音楽は必要だ!」ってね。

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