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チェス盤に秘めた人生の選択

お久しぶりです。あさこです。
自分へのリマインドとして、最近のmoodを執筆します。

実話です。
孤独の中で孤独と内面の闘いを描いた内容です。


戦いは、派手なものばかりではない。
孤独の中で、誰にも見えない「一手」を選ぶことが、最も重く、最も美しい闘いなのだ。


Title: No limitations -チェスのキングと震える手


男は机に座り、目の前の一つの駒を見つめている。
駒はチェスのキング――だがそれはただの木片に過ぎない。

彼の世界は、狭い四畳半の部屋だけだ。

だが、その部屋の中には、静かに狂う戦いがあった。

「欲しいもののために戦わないなら、それが手に入らなくても泣くなよ。」
すべてが上手くいっていた頃、この言葉をいつも呪いのように、自分に言い聞かせていた。
そして今――彼は今、この言葉に追い詰められていた。

男は再び目の前のチェス盤を見つめる。

「……俺は、プロだったんだ。」

かつての栄光が、頭の片隅で腐り落ちる音がする。
昔はやればなんでもできていた。チェスもその一つだったのだ。
周りが苦労する中、自分一人が苦労を苦労とも感じず
心のままに自分の興味に全力を注いでいたのだ。

しかし、一年前にそれはすべて幻想であると
ある出来事が男を死の寸前まで叩きのめした。

それ以来、男は生きる事に恐怖を抱くようになる。
今まで出来ていたすべてが出来なくなってしまった。

自分が、自分への信頼を完全に失ってしまったのだ。

彼の右手は震えていた。指先が一手を打つことを恐れている。
なぜなら、それが何を意味するか分かっているからだ。

彼が選ぶ一手――それは、逃げてきた人生と向き合う瞬間だからだ。

過去の記憶がフラッシュバックする。
愛するものは何だった?名声か?家族か?自分自身のプライドか?

「愛する人の為に戦えないなら、そもそも君はどんな愛を持っているというんだ?」

彼が何もかも投げ捨てた時、すべては途切れた。

男が人生の一手に失敗する事を象徴するチェスのキング

停滞した水のように腐っていく自分に嫌気がさしていた。
どんなに逃げても、逃げ切れないとわかった。
もう、うんざりだった。

「俺はプロだぞ。この状況でも勝てるはずだ。」

部屋に誰もいない。だが、男は静かに言い聞かせるように呟く。
それは、かつて自分が自分を奮い立たせるための口癖だった。

だが――勝つ?何に?誰に?
男はかつての自分と対峙する。

『逃げる』ことを選び続けた自分。
一手が打てないほど『恐怖』に囚われた自分。

「実際、能力なんて最初から無かったのかもしれない。そうだ、無いから逃げたんだろう。」
自分を笑うように呟いた。

”すべてが上手くいっていた頃”そんなものは最初から無かったのだ。
確かに、要領良く物事を習得していた。だが、それではプロになれても”本物”には勝てなかった。

チェスに限らずすべての分野で同じ態度だった。
何もかも70点だった。
そして彼は彼の愛する人と彼の不幸を願う悪魔にも同じ態度を取ってしまった。

「知ってたよ。」
瞬間、右手が動いた。
チェスのキングを一歩だけ前に進める――それだけの行為。

たった一歩。だが、それは何より重い「選択」だった。


「…まだ、俺は終わっていない。」

言葉が漏れる。
人は誰もが「限界」を自分で作り、その枠の中に閉じこもる。
逃げる理由、諦める理由はいくらでも作れる。

それでも、まだ生きている。

「私に限界はない。」
それは虚勢ではなく、切実な願望だった。
彼は今まで逃げてきたが、何を求めているかは変えられなかった。

「愛する人の為に戦えないなら、そもそも君はどんな愛を持っているというんだ?」
もう、逃げない。出来る事をやろう。

男は立ち上がり、ゆっくりと部屋の扉を開けた。

四畳半の外に広がる世界は、決して新しいものではない。
木造建築の匂い、遠くで走る車の音、曇天の空――何一つ変わらない。

だが、男の目には違って見えた。

一歩を踏み出す。今まで恐れ続けた「外の世界」に向かって。

歩を進めるごとに、何かが歩みを止めさせようする。
過去の後悔、逃げ続けた選択、そして誰かの声。
だが足は止まらない。

戦いは、派手なものばかりではない。
孤独の中で、誰にも見えない「一手」を選ぶことが、最も重く、最も美しい闘いなのだ。

男は、その小さな一歩を踏み出す。
男は自分の殻に引きこもっていたが、ついにまた歩くことを選んだ。

それは他人には見えない。孤独で、冷たく、誰も気づかない戦いだ。

「次にもう一度、もう勝てないという日が来るまで歩き続けよう…。」
男はそっとつぶやいていた。

冷たい風が吹き抜け、空に微かな光が差し込んでいた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あなたは人生の限界に直面した時、どう動きますか?
この物語について、ぜひシェアや、感想をお聞かせいただければ嬉しいです。
ではでは。


参考文書:
An inner journey to optimal performance The art of learning
Josh Waitzkin著
https://www.joshwaitzkin.com/the-art-of-learning

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