頼るのもOKーIt's Okay Not To Be Okay
メンタルヘルスの話題が続いてしまうけど、いろいろ思い出したので具体的に書いてみる。
米国に来て驚いた違いの1つが、メンタルヘルスへの関心度が高くサポートも充実していることだ。
米国に来て数か月。以前から続く不眠がひどくなった。相変わらず授業はハードで課題に追われへとへとなのに、眠れない。多国籍の学生が参加するグループワークもあって、アクの強いチームメートとのやり取りで疲弊したり、将来への不安など気にかかることがいくつかあるせいか。本格的な冬に入り、カナダにほど近いこの地では毎日どんよりとした灰色の天気が続いて気分も落ち込む。雪が降り出せば、ひたすら白黒の景色。眠れないのが続くと体調も弱り、これまでは大丈夫とやり過ごしていたことをやり過ごす元気がなくなっていくのがわかる。
むむ、これはよくないなあ。
眠りたい。でも眠れない。
困ったなあ、なんとかならないかなと思い、キャンパスにあるクリニックを受診したところ、医者から「カウンセリングやってみる?あなたの場合は薬より、カウンセリングがいいかもよ」と提案された。
聞けば、カウンセリングをするのは本格的なカウンセラーによるカウンセリングではなく、心理学などを学ぶ博士課程の学生らだという。学生とはいえ対応は本格的、もちろん個人情報保護も厳守。でも、同じ学生という立場だからこそ分かり合いやすいこともありそうだ。何より、心理学の話も興味あるし、ちょっと楽しそう…
というわけで、カウンセリングに定期的に通うことにした。場所はキャンパス内のクリニック「Barnes Center」で、学生はもちろん無料だ。
私のカウンセラーになってくれたのは、SUの博士課程で精神医学を学ぶMaddie。笑顔のMaddieに迎えられ、クリニック内にある彼女の個室で、カラフルなクッションが置かれたソファに腰掛ける。お互い自己紹介した後、私は眠りを妨げていると思われる理由を堰を切ったように話し出した。キャンパス上での人間関係から、人種や宗教がらみによるちょっと微妙な緊張感、進路への不安、等々…。
「あなたの不眠の原因は明白なようね。では、その原因にどうやって向き合えるか考えてみましょうか」。話を聞き終わったMaddieが、てきぱきと言う。その口調に、ちょっと安心感を感じる。
1回のセッションは30分。大体、最初の10分ほどで私が話しをし、そのあとにMaddieが「そんなときは、こうしてみて」とサジェスチョンをしてくれる。さらにお互いあーだこーだとやり取りしたら、あっという間に終了だ。「話し足りない!」と思うぐらいで切り上げるのがちょうどよいのかも、と感じた。
セッションは大体、2週間に1回。時にはお互いが着ているセーターや冬休みの予定といった雑談で盛り上がり、大体最後はきゃっきゃっと笑いながら別れた。
私にとっては効果はあったようだ。Maddieと1-2回、会ったころからそれまでより長く眠れるようになった。友人や家族以外の立場の人に話を聞いてもらい、かつ悩みが生じたときの考え方の対処法などを教えてもらったのがよかったようだ。
精神的な不調を感じたときに頼れる手段は、カウンセリングにとどまらない。BarnesCenterには瞑想ルームもある。瞑想ルームは小さな個室で、それぞれ大きなリクライニングチェアがあったり、デスクチェアがあったりと一人で籠ることができる。それぞれの部屋の中には心理療法で活用されると思われる様々なグッズがそろえてあり、自由に使うことができる。
手のひらサイズの熊手で一人しずかに日本庭園風?の箱庭を作ったり、心の赴くまま絵を描いたり、チャイムのような楽器?を「ちゃりーん」と慣らしてみたり…はたまた、真っ暗闇にして静寂か、もしくはリラクゼーション音楽を流しながら目を閉じたり。好みやその時の心身の状態に合わせたリラクゼーション方法が選べるのだ。
機械が自動で全身をマッサージしてくれるマッサージチェアもあった。
私も、何を背負ってるのかわからないのに走り続けて止まることができない自分を止めたい!と、何度か利用した。目をつむってマッサージチェアに寝転ぶだけでも、頭の中でぐるぐると走り回っている思考を一瞬止め、再び目を開けるころには、「そんなに焦らなくてもいっか」と思えるようになっていることがある。
方法はなんでもよい。大事なのは、心の健康を保つこと。弱った心を休ませてあげること。カウンセリングもBarnesCenterの設備も、そのために私たちはいつでも力になるよ、というメッセージを送ってくれている。
Maddieいわく、アメリカでもまだメンタルヘルスに対しては偏見がある、とのこと。カウンセリングに通うことも、経験がない人にとってはハードルが高いのだそうだ。私にとっては、Maddieとのセッションは、友人ともクラスメートとも家族とも異なる距離感の人に、心の内をそれっとさらけ出すことができるとても気持ちの良い環境だった(それが目的だからこそ、何のてらいも前置きもなくできるのかも)。さらに、「この反応はどんな意味があるのか?」「こういうときはどんな風に自分を落ち着かせればよいのか?」といったこともプロから直接聞けるので、毎回興味津々で臨んだ。
メンタルヘルスといっても、必ずしも病気ではない。本格的に体調を崩す前に心の内を吐き出して楽になったり、自分を客観的に見たりする方法を習得したりできれば、もっと楽に生きることができるかもしれない。たとえば落ち込んだときにお気に入りのカフェに行ったり、好きな本を読んだり、そんな行為の延長のような感じで、日本でも気軽にカウンセリングに行けることができるようになればいいのにな、と思う。
カウンセラーに「私の友人は私にとってanchorだ」と言ったら、「でもあなた自身が一番しっかりしたanchorなのよ」と返ってきた。そうだ、私は自ら私を助けることができるんだ。私は、私のAnchorなんだ。カウンセリングはそのことを思い出させてくれて、自己肯定感を高める手助けをしてくれる。
そもそも人間は不安定で流動的なもの。不安定だと感じたときに、気軽に頼れるSUのカウンセリングのような仕組みが、もっと普及すればよいのにな、と思う。
”It's Okay To Be Not Okay ( 大丈夫じゃなくてもいいんだよ)”
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