2年前の秋。 久しぶりにできた好きな人との関係が終わった。 天神地下街をひとりふらふらと彷徨いながら、「どうせ死ぬ三人」というポッドキャスト番組を初めて聴いた。 再生ボタンを押した理由は目を惹くアートワークと後ろ向きなタイトル。 三人の男性がボソボソと喋っている。 暗い。 でもほんのり楽しげ。 ふらふらの私に染み入るような聴き心地がした。 私はワンピースを物色するのをやめてどうせ死ぬ三人を聴く事にした。 muroさん、上水さん、imuさん。 それぞれがとても優秀なと
「ペーイ」 と呟きながら食器を持ってキッチンへと歩き出した瞬間、何か大切な事を忘れているような気がして胸がざわついた。 ちょこっと見えた記憶の尻尾を掴んで引っ張る。 何だっけ何だっけ… 近所の公園を歩く、私と今より少し小さな息子。 「ねえ、ママのいいところ教えてよ」 「え〜、面倒くさ」 「いいから教えてよ!!」 「優しいところとー、…ペーイって言うところ」 「え?!ママ、ペーイって言ってる?」 「うん」 そうだった。思い出した。 私のいいところなんだった。 ペー
中学1年生になった息子はいわゆる反抗期にスッポリと浸かっている。 四六時中というわけでもなく、素のハッピーボーイに戻る事もあり息子の反抗期はどうやら行ったり来たりするもののようだ。 とはいえ家の中に不機嫌な人がいる事がストレスだし、何よりずっと仲良しだった息子に冷たくされると悲しい。 でも大丈夫。 気持ちが折れそうになる時には心の中の思い出BOXから息子とのある会話を取り出して心を落ち着かせるのだ。 小学校低学年の頃だった。 本格的ではないけれど一時的な反抗期のような
在宅勤務の朝。 息子を送り出してから朝食を食べ、掃除機をかけてひと息ついた頃に三毛猫のマコちゃんが自分のベッドでうとうとしている姿が目に入った。 外からマンションの管理人が箒を履く音が聞こえる。柔らかいベッドに柔らかい体を沈み込ませてゆっくり目を閉じていく。 それを見つめていると、昨晩買い物に行ったドラッグストアで軽快なステップを踏み踊る息子の姿を思い出した。 楽しみにしていた中学校生活が始まった息子はここ1週間ずっと浮かない表情をしている。 小学校の頃の友達とただの1
「おらイケメンになる!」 3日ほど前、小学校を卒業したばかりの息子が洗面所で叫んだ。 ませた女子にマスクの上からキスされたり、砂場に押し倒されてキスされたり、私を好きにならないなんて気に入らないと定規をへし折られたり、恋愛事情においては圧倒されてばかりのおぼこい息子。 女子から電話があっても「今ゲームしてるから」と言って切ってしまう。 遊ぶのは男子のみ。 イケメンになりたいなんて言葉が出てきた事に驚いた。 「お母の持てる全ての美容に関する知識を俺に教えてくれない?」
今日、我が子が小学校を卒業した。 6年間はありきたりだけど長いようで振り返るとあっという間。 でも写真を見るとちんちくりんだった息子は私の目線の高さまで大きくなっていてきっちり6年分成長している。 適当な朝ごはんを食べ、文句を言いながら登校し、帰る頃にはまあまあ上機嫌で、夜ご飯までゲームしたりYouTubeを見て、申し訳程度に宿題をする。寝る前にはヘッドフォンで好きな音楽を聴いて踊り、漫画のストーリーを妄想する。休みの日は母親とお気に入りのラーメン屋さんに行く。 そんな息
今年も私の住む福岡に雪が降った。 今から8年程前、私は母の経営する小物屋さんで経理をしていた。 幼稚園が冬休みのため当時4歳くらいの息子を連れて出勤した日は確か給料日。 二人で銀行へ行き忙しく手続きをしていた時、外では雪が降り始めた。 息子が窓のそばのソファに座り舞い落ちる雪を夢中になって見ている。 「ママ、雪がいっしょにあそぼーっていってるみたいだねぇ。」 なんて美しくピュアな事を言うんだろうか、、、母、絶句。 また別の日。 息子が漢字と言うものの存在を知った頃、ス
私は友達が少ない。 小学生から続く唯一の友達がちおり。 と言っても小学生の頃はあんまり好きじゃない子と一緒にいる地味な子、という印象しかなかった。 かなり遠い、興味のない対象。 中学に入って初めてクラスが一緒になりなんとなく仲良くなった。 みんなが恋愛のことばっかり考えるようになりドロドロとした空気が蔓延する中でちおりは色恋からキッパリと距離を取り、みんなに適度に可愛がられるペットのようなポジションを取り続けていた。 戦略的に舐められにいっていたのだ。今思えば。 そ
父は創業50年を越えるレストランのオーナー兼シェフである。 アーティストの様な風貌で昔からずっと女性の影が絶えなかった。 母は決してそれを受け入れず死ぬまで苦しみ抵抗した。私と姉は物心ついた時から母の悲しみを聞かされ、彼女の味方だった。 姉妹揃ってすっかり成人し、しばらく経った頃にお店の40周年記念パーティーが開催された。 地元のアナウンサーが司会を担当し、昔馴染みの地元企業の会長さんや料理人仲間、歴代従業員たちも駆けつけ有難いことに盛大な宴となった。 会場の出入り口は
ホテルのウェルカムドリンクで早速酔っている。 前回ここへ来た時私は今の私より3歳くらい若かった。 外務省職員の彼氏にリオに来て欲しいと誘われていた。お手伝いつき、料理人付きの生活。 若さも彼氏も夢のような生活も全て失って2024年のお正月を迎えている。 今の方がずーっと幸せなんですよね。 リオじゃなくて福岡にいて良かった。 毎日笑って 吹けば飛ぶような日々を愛している。 最近見つけた新たな皺。 声変わりしはじめた息子。 勇気を出して布団に潜り始めた猫。 繰り返し同じ
揉めている。 大晦日の朝、親族集まる前からもう揉めている。 誰が何を何時に持って集まるのか。 がめ煮は姉、ケーキとお節は私。 蕎麦と数の子、黒豆は頂き物がある。 鰤は?もう買ったって言ってたよね? お節はどうせ食べないから海老となんか適当でいい? いや子供達の勉強のためにお節の詰め合せを買ってきて。 数の子と黒豆がかぶるやん。 たくさん食べるから大丈夫。 餅は?餅はどうする? それでも集まれるうちに集まっといた方がいい。 いつ最後になるか分かったもんじゃない。 皆さんど
起きてすぐにYouTubeを見始める息子。 「朝は時間の確認もしたいからテレビにして!」 と、ふりかけ片手に叫ぶ私。 帰省ラッシュのニュースを見つけ、 「これこれ〜!年末感!フォー!」 そんな私に息子は 「おかぁもおばちゃんになったねぇ」 「は?あんた、おかぁがギャルの頃から知っとったと?」 「僕はねえ、あなたの事を何千年も前から見ていたのだよ…ふふ…」 「…息子…おかぁもそんな気がしてる…」 「え、こわ」 「ふふ、これがキモ返しだ。おかぁの勝ちだ!」
仲良しの同僚と雑談している中で、毎週欠かさず聴いているポッドキャスト「大久保佳代子とらぶぶらLOVE」の話になった。 この週配信のテーマが面白く、彼女も気になったようだ。 以前から光浦さんファンを公言していた彼女に大久保さんのどこが好きなのかと聞かれて 「大久保さんの、地を這うようなところが好き」 と答えを口にしてから本当にそうだな、と思った。 彼女は光浦さんの生き方、考え方、趣味の手芸に関する事まで好きなのだそう。決まり事をしっかり守り、内心に毒を持ちつつも誠実でい
日々の疲れをホヤホヤにほぐしてくれる神ポッドキャスト番組「21世紀の食いしん坊」の第0回グルメツアーに参加してきました! この番組のグルメフィールドでもある福岡県田川市の廃校利活用施設、いいかねパレットからスタートです。 とその前に、私のグルメツアーは雪もチラつく博多駅ホームに汗だくで駆け込んでくる作務衣の上水さんを見守るところからのスタートでした。 間に合ってよかった。 どうなる事かと思った。 ナイス、駆け込み乗車。 電車に揺られ田川後藤寺駅に着くとささやんと合流し、
最近さくらももこのエッセイ集を読んでいる。 幼少期の話が多くどれも面白いのだけど、読んでいると昔の記憶がどんどん鮮明に溢れ出て来て読書どころではなくなってしまう。 今日は、幼稚園のエピソードを読んでピーマンを持って追いかけてくる先生の事を思い出した。 私はピーマンが嫌いだった。 お昼ご飯のピーマンを残し、最後まで食べなさいという先生の言葉を振り切って仲良しのユキちゃんとブランコを漕いでいた。 先生の名前は忘れたけどその場面を写真のように鮮明に覚えている。 ショートカッ
東京のテレビ局で働いていた時、父親から携帯に着信があった。 父からの電話は珍しかったのですぐに折り返すと、母と姉を乗せてのドライブ中に交通事故を起こした、とのことだった。 詳しく聞くと父の居眠り運転が原因でガードレールに突っ込み、後部座席で横になって寝ていた母は足元に転がり落ち、シートベルトをせずに助手席に乗っていた姉は頭からフロントガラスに突っ込み二人とも病院に運ばれていた。 3人とも命に別状はなく、父は鞭打ちのみで入院の必要はなし。 「お前どうするや?仕事やろ?」 と動