【読後感】「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」ターリー・シャロット著
2020年12月,単身赴任中の私は,年末年始に東京に暮らす家族の元に戻るかどうか?判断に迷っていました。
新型コロナウィルスの感染者が拡大する中,その原因を「危機感が共有されていないことにある」とメディアが報じていました。
自分自身の行動や能力などを実情よりも楽観的にとらえ,危険や脅威などを軽視する心的傾向。いわゆる「楽観主義的バイアス」が原因だということでしょう。
著者のターリー・シャロット氏は,この「楽観主義的バイアス」をテーマにTEDで講演,2012年以来,200万回を超える再生回数を記録しています。
著者は,ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授で,認知神経科学が専門です。楽観主義の次に選んだテーマが,「影響力」です。
人が信念や行動を変えるときの決め手は何か?
本書の目的は,他人を変えようとするときに犯しがちな誤りと,成功した場合の要因を明白にすることです。
邦訳のタイトル「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」は,犯しがちな誤りのひとつです。知性で説得しようとするのは,誤り。むしろ,状況をコントロールしたいという人間の根源的欲求と,そうしたコントロールを失うことへの不安に訴えかける。たとえば,他人の失敗を例に挙げて感情を誘導し,相手の活動パターンを自分と同期させることで,自分の視点を通じてものを見るように働きかけるのです。
「年末年始に東京に暮らす家族の元に戻るかどうか?」
私は,企業に勤める管理職のひとりです。
もしかりに,新型コロナでなくとも,インフルエンザにかかり,あるいは,単に発熱しただけでも,オフィスに出勤することができなくなります。その際,東京に帰省していた事実があれば,非難されるのは火を見るより明らか。そう考えると,年末年始の帰省を断念せざるを得ません。
「希望をもたらす」のと比べ,「不安を植えつる」のは難しいとされます。けれども,①何もしないように仕向ける②相手がすでに不安な状態にある場合に限っては,有効に働きます。
本書では,具体的な事例を交え,「事前の信念」「感情」「インセンティブ」「主体性」「好奇心」「他人」,これら7つの重要な要素に着目し,それぞれがどのように影響を及ぼし,また妨げるのかを順を追って検証しています。
相手が間違っていると主張したり,脅して何かをさせようとしたり,強制的にコントロールしたり…,これらは,相手の考えや行動を変えたいときについ陥ってしまいがちな習慣です。
本書を読めば,人間の心理・思考プロセスに沿って,相手の気持ち,考え,行動を変えることができます。