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ドグマ・カルマ.マグマ 序章 ~追憶の椿女より~

まだ愛が愛だと世間から認識されていた頃、
私は椿で真冬の灰色に染まった空をただ見上げていた。
そこに通りかかった私よりも若い老夫婦が話し掛けてきた。

「なんて醜い花でしょう。燃やしてあげたいわ」

人間の言葉を知らなかった私は、
それを誉め言葉と捉えて、
ただ朽ちるまで咲き誇る事しか出来なかった。

今になって思えば、そんなセピア色に殴られた
写真のような日々が最も幸せだったのかもしれない。

今は愛が欲と認識されて随分と時間を無駄に殺されてしまった。

そして今宵は神が殺されて100年目を祝うお祭りで街中は賑わっている。
子供の泣き声なのか、鳥の鳴き声なのかさえ聞き分けられない程に
狂おしい祭典が絶頂を迎えようとしていた。

2899.13.86... チベット時間でもう29時が刻まれていた。

私もそろそろ出かける支度を始めよう。
黒い翼にお気に入りのピンクのレザーで仕立てたスーツに着替え、
蛍光グリーンの雨が降りそうだから、念の為、透明色の猫を連れて行こう。

さぁ、お待ちかねの新しい混沌が始まるわよ。
椿だった私が今では悪の枢軸にまで成り下がった。

もう何も恐れない。
もう何も後悔しない。
もう愛を愛と呼ばせない。
もう明日を泣かせはしない。

蛇の抜け殻みたいでカッコイイ街並みの
螺旋状に並んだ道徳を一枚ずつ引き抜き
今日の運勢を占いながら
暇つぶしに路上で寝転がっている野生の人間に声を掛ける頃、、、

ほら、透明の猫が蛍光グリーンに染まり始める。

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