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2020年3月の記事一覧

深い水たまり

明日は趣味の畑いじりをしようと思ったら 雨が降ってしまった

翌朝起きると 雨は上がっていた
もうすっかりやめる気でいたものだから どうしようかと思ったが 先の予定を見るとどうにも今日しかなさそうだ
重い腰を上げ 野良着に着替え 徒歩五分のところに借りてある畑へ向かった

やっぱり畑はぬかるんでいた
「うわ」
土に足を滑らして 尻餅をついた
「あーあー、やっぱり今日はやめておけばよかった」
濡れた

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質問する観葉植物

土曜日の午後 リビングでぼうっとしていたら 観葉植物に話しかけられた

「おい、おい」
最初は 電化製品の立てる音が おい、おい、と人の声に聞こえたのだと思った
「おい、なんで気づかないんだ」
そう言われて初めて 話しかけられていると気づいた
誰が?誰が話しかけている?どこから?
私はきょろきょろと見渡した
どうも出窓のほうからのようだ
じっと出窓に目を凝らすと 話し声のするたびにぴくぴくとうごい

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お風呂の底の世界

お風呂に入っていたときだった
何かした覚えはないのだが 何かしてしまったのだろう

浴槽の底が溶けたキャラメルのように ぐにゃぐにゃになってしまった
ぐにゃぐにゃの底では私の体重は支え切れず びよーんと伸びた底は徐々に薄くなっていき とうとう私の体は浴槽を突き抜けて落ちてしまった

浴槽の下は それこそキャラメル色の泥の中のようだった
そこを泳ぎ行くのだけれど 不思議と呼吸は苦しくなかった
むしろ

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空のガラス

空にヒビが入っている

多分誰かが割ったんだろう

マレットで木琴のように叩いて

ほら ヒビが広がった

がちゃんがちゃんがちゃんがちゃん

音を奏でている

もうすぐ粉々になる

一枚の板ガラスは跡形もなくなった

細かくなったヒビがきれいだなあと眺めていたら

あ 欠片が1つ落ちてきた

それほ左目に飛び込んで

涙で解けた

けれど僕は、雪の女王に出てきた少年のようにもならず、いつもと変わ

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海に住むお姫様

海に住むお姫様

王子様は陸に住んでいて
会えない日々が淋しくて
涙を流した

海の底には
お姫様の住むお城があった
お城や庭は淡いパステルカラー

庭にはカラフルな海藻が咲き乱れていた

お姫様は庭のパステルグリーンのベンチに座り パステルピンクのハンカチで涙をそっとの押さえた

涙はポロリとハンカチからこぼれ
真珠のように地面に転がった

泣いても泣いても切なさは募るばかり

お姫様が泣くたび

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秋の空

秋の空が あんまり高くて ただただ泣いた

何が悲しいのかも分からない

大の大人が声を上げて泣いた

それほどに体を冒している悲しみは大きくて
それを搾り切るようにわんわんと泣いた

灰色の悲しみがほぼ搾れた頃 ふと泣き止むと 体はカスのようになっていた

とても軽くて 骨以外の全て取っ払ったようになっていた

軽くなったのが嬉しくて 骨だけになった体を がしゃがしゃと鳴らしながら歩いて帰った