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北九ブッカーズ

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北国の人間が一度も行ったことのない北九州の写真を見ながら様々な妄想を抱いていく異色プロジェクト。 参考写真:http://kitaq-gmtfoto.blogspot.jp/20…
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2016年4月の記事一覧

にゃるようににゃる

にゃるようににゃる



 キジトラ柄の猫が二匹勝山公園敷地内の八坂神社にいる。

 一匹は薄くもう一匹は濃い色をしているが、濃い方が兄貴だ。往来する人間たちを気にも留めず歩きながら話をしている。

「兄貴」

「にゃんでい」

「最近よく見かけるやつがいるでしょ?」

「最近? ああ、白に黒のぶちのことかい」

「そうそう」

「そいつがどうしたってんにゃ」

「そいつ、また新しい女はべにゃせてましたぜ」

「ほう。

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野焼き

野焼き



 全国ではまだ何十箇所か、野焼きが行われている。
 野焼きというのは、その名の通り、春先及び夏になる前に枯れ草に火を放ち野を焼き、害虫や山野の植物の育成を人工的に制御する方法であり、平尾台でも二月あたりに毎年行っている。
 火がついた時は火が生き物のように計算されつくして野を焼いていく。その姿を見に毎年人が訪れる。
 野焼きの準備が始まる様子を見ながら、今年に限って海藤太は我が身に重ね合わせる

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才能

才能



「しかしあの川端もついにノーベル賞か。我ら文士としても誇らしい限りじゃないか」

 いつになく上機嫌の加古に肩を組まれながら澤田は縮こまっていた。川端康成だって知り合いでもないし、加古も文章が売れているわけではなく文士気取りをしながら引っ掛けた女から酒代をもらい、今のように、さも偉そうに街を闊歩するというヒモでしかない。

 澤田はそんな加古と一緒に歩いて同類だと見られることが恥ずかしかった。

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ゴッホの肖像

ゴッホの肖像



 珍しくパイプでタバコを吸う老人だった。

 例えて言うならゴッホの自画像にほぼ近い。口や頬にまで髭があり、だいぶ白髪が混じっていて、いつもジャケットを着て海を見ている。洒落たハットに煙が絡み付いているようだった。

 見た目は老人っぽいのだが、体つきが顔の皺に似合わずガッシリとしていて、来ている服がはち切れんばかりだ。

 海を見ている、というよりも、どうやら船を見ている。船に興味があるのか

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時代は移り変わり

時代は移り変わり



 福岡県立小倉高等学校は政財界や文化人、スポーツ選手なども数多く輩出していく高校となっていくが、そこに通う倉田満にとって未来の大物など知るよしもない。

 高校生の日常とはとても個人的なものであって、たとえ大人の世界に興味を持って何かを論じたとしても、精一杯の背伸びでしかないことは、思い返してみればかわいい現実だなと満は感じていた。

 当時、まだ新幹線は博多まで来ていなかった。満が高校三年生

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幻の煙

幻の煙



 胸がどす黒くぬめっていくようだった。

 一度抱いた憎しみは、どうすれば晴れるのだろう、とバーボンの入ったステンレス製のボトルを片手に中瀬は夕陽を見ていた。

 工場地帯の煙突から出る煙に太陽が焚き付けられている。やがて煙に押し込まれ夜が来るだろう。

 空の雲でさえ煙のように思えてきた中瀬はボトルのキャップを勢いよく開けて中のバーボンの半分を飲み干す。

 期間労働者として工場で働いていた

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第二の結婚式

第二の結婚式



「ちょっと運転しろ」

「え?」

 夫、将和の言葉に妻の響子は驚きの声を上げた。

「でも……」

「運転できるくらい体力が残ってないんだ。頭はぐるぐる回っているのに、体が動かん」

「はい」

「女に運転は任せられん」と、一度として運転をさせたことがなかった将和が初めて響子の運転でドライブに行くのだから、響子の驚きも無理はない。

 単身赴任五年目。海外にも行くことが多い。家に帰ってくるご

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濃霧のモノレール

濃霧のモノレール



 鉄道の路線は数えられないくらい日本国内にあるというのに、地下鉄やモノレールや路面電車は国内に数えるほどしかない。

 その中のモノレールの一つなのだということは大人になって初めて知ったのだが、生まれ育ち、ほぼ北九州市をあまり出ることはなく、福岡県外に出たことなどまったくなかった武士は霧の中をふらりふらりと揺れるように歩いていた。

 タケシと名付けられ漢字も雄々しさを込めて父からつけられた名

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花喰い

花喰い



「春先」も「寒波」も、まるで感覚が違う。

「赤カブの花が咲いた」と彼女は言った。

 一体ここではいつが「春先」なのか。

 桜は五月頭に咲くけれど、ここでは二ヶ月前に散っている。

「寒波」なんて言えば、積雪五十cmは普通のことだし、「しばれる」というくらい肌が凍ったように突っ張って痛くなる。

 でもここではそれはないのだ。

 きっと、桜が咲く三月に入り始めると「春先」なのだろう。

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恋桜

恋桜



 右の乳房を左手で添えるように持ち上げる。

 貯水池に映りこむ桜のまあるい木が桃色に染まり、花弁をひとひら水に添えて波紋を広げ散らせる。

 ぐっと指に力を入れて乳房を握ると吐息が漏れる。

 そよ風が吹き、またひとひら。右親指を唇の紅に当て、爪を噛む。虚ろに開いた唇の奥に指を入れたくなるのを抑える。

 まるで池に浮いているかのような桜の木は、周囲の色づきよりも真っ先に咲き乱れている。

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最後の鰻

最後の鰻



「明日だったらエイプリルフールだったのになぁ」

 常連の蛯名は冗談とは裏腹に神妙な気持ちだった。

 明日には閉まる若松丸仁市場の中にある鰻を焼いている店の年老いた女将に声をかけた時、頭の中を思い出が駆け巡る。

 いつものように年季の入った鉄製の四角い練炭コンロの上で、鰻の油がよい香りを上げている。

「うなぎ」と書かれた暖簾は焼かれた鰻の油のせいか、だいぶくすみ、店内も年月以上に燻されて

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線路の下で

線路の下で



 鈍い音が頭の中に響き、頭蓋骨にひびでも入ったのではないかと和子は頭を抱えた。

 キルト帽を被っていなければ、こぶができたかもしれない。

 鉄筋コンクリートの高架橋の下には小さなトンネルのようなものがあり、大人になった和子はもう頭がぶつかるようになっていた。

 すぐ頭の上には日豊本線が走っていて、子供のころ行き来していた。中学高校は別の道を行っていたし、大学と就職は東京だったため、地元に

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序



「旅人」と「旅行者」はどう違うのかを考えていた。

 辞書的意味は当然同じだ。「旅人」については「たびにん」と読むと「ばくち打ち」や「香具師」の意味が出てくる。

「香具師」は「的屋」とも言うが、今じゃ「的屋」なんていうと、祭りに出てくるちょっとヤクザっぽい顔つきの人がたこ焼きや焼きそばの屋台をやっていて、なんていうイメージがあるけれど、有名どころじゃ「ガマの油売り」などがある。

 それじゃ

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